今高研究室 Imataka Lab/xR

獨協医科大学医学部小児科学

ブログ
2021.09.06

製薬企業の戦略的ワクチン開発力が東京五輪を可能とした

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 2021年9月5日、東京パラリンピック2020は世界中から162の国と地域、そして難民選手団を含む4400人余の選手が参加し、全13日間の幕を閉じた。新型コロナウイルス蔓延に伴う1年遅れの開催、さらに緊急事態宣言のため多くの競技が無観客開催となった。国際パラリンピック組織委員会(IPC)の発表では、大会に関連したコロナウイルス感染者は入院1名を含む全301人。ブラジルから訪日したアンドリュー・パーソンズ会長は大会の成功と閉会宣言を唱え、3年後の2024年夏に開催予定のアンヌ・イタルゴ、パリ市長に旗を引き継ぎ、夜空の花火と共に聖火の灯は消えた。多くの大会ボランティアの協力を得て催された東京大会2020が、様々な意味で長きに語り継がれることは間違いない。観戦チケットの負債額だけでも数百億円以上に膨らんだ本大会が、栄えあるレガシーに昇華しうるかどうか。それはこの度の五輪を最後に、世界がスポーツを国威発揚の場と見る古い価値観を捨て去り、全人口の15%を占める障害のある人とない人が共に共生するニューノーマルな社会とダイバーシティを実現できるか否かにかかっている。


 しかし、地球人口の35人に1人、約2億2千万人が罹患し、今現在も完全制圧が厳しい新型コロナウイルスが蔓延る真っただ中にこの様な世界規模のイベントが開催できた立役者は、正にファイザーやモデルナを始めとするグローバル大手製薬企業であり、彼らの勇気あるワクチン事業戦略と卓越したワクチン開発技術が功を奏した成果であることを世界は忘れてはならない。通常どんなに急いでも10年以上の月日と最低2,000億円超の開発資金を必要とする新規感染症のワクチン開発を、僅か1年足らずで、しかも絶対的に不可能とされていた「mRNAワクチン」をゲノム編集・化学合成し、臨床試験まで成功させた衝撃は、1961年にジョン・F・ケネディーが10年以内に人類初の月面着陸を開発目標に掲げたアポロ計画をも凌駕する快挙である。もし未だにmRNAワクチンが開発されていなければ、五輪はおろか、人類は地球規模で未曾有のウイルス惨事に陥っていたことだろう。

 事実モデルナ社は、2020年1月11日に中国の研究チームから新型コロナウイルスの全塩基配列が発表されると、驚くなかれその2日後には、この世にまだ存在していないmRNAワクチンの設計プトロタイプを完成させている。そして僅か2か月後の3月16日、米国立研究所(NIH)と共同で初回の臨床試験へ突入している。WHOが正式にパンデミックを発表したのが3月11日であることからも、モデルナが脅威的スピードでmRNAワクチンを開発したことが解る。同じ時期にWHOのパンデミックを受け「不可能を可能にしよう」と1年以内のmRNAワクチン開発実現を強力に指令し、全社員を奮い立たせたのが、ファイザーの最高責任者であるアルバート・ブーラCEOである。コロナウイルスの猛威が拡がりロックダウンが発令され、誰もが開発不可能かもしれない不安に駆られ、個別にリモートワークでの開発作業を余儀なくされる中、ついにファイザーは不可能を現実のものとし、4月23日にドイツ・ビオンテック社と共に臨床試験に着手した。そして90%以上の驚くべき有効性を実証したのだ。同時にファイザーのグローバルサプライ部門は、数億回分のワクチンの液体成分を変化させることなく、摂氏マイナス25度という非常に厳しい条件で冷凍保存をしたまま全世界へ輸送可能な専用クーラーボックスの開発にも成功した。最終的ににファイザー社は、8か月足らずで世界初のmRNAワクチンをリリースし、2021年内に20億回分を供給する見込みを達成した。


 人類の歴史は不可能に対する挑戦の歴史でもある。マゼランが大海原を大航海し、エジソンが白熱電球に明かりを灯し、ライト兄弟が空を飛び、アポロ計画の暁にニール・アームストロングとバス・オルドリンは月面を歩行し得た。人類が前例のない困難を打開するとき、そこには必ず強力なリーダーシップと最先端の科学技術、そして志を同じくする勇気あるチーム哲学が存在する。今私たちが立ち向かっている新型コロナウイルスは変異も多く、完全な制圧には予測外の困難が待ち受けることだろう。しかし数々の人類の挑戦の歴史を振り返るならば、きっと我々は遠くない未来に、新型コロナウイルスの流行拡大を制圧する新たな解決策を必ず見つけ出すはずである。

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