山川悟ゼミナール

東京富士大学経営学部

インタビュー
2019.12.08

就職試験からアニメ作品、将棋まで。多種多様な「文化」に通じるこれからのマーケティングとは?|東京富士大学 山川悟教授インタビュー

東京富士大学経営学部経営学科の山川悟教授にお話を伺ってきました。


専門は「マーケティング」。主に、文化のメソッド(物語、遊戯、笑い、デザイン、五感)を採り入れたマーケティングを研究・開発してるとのこと。

それは一体どのようなメソッドなのか?多岐にわたる活動の中の「本質」に迫ります。


企業のマーケティング部門から大学へ

ーー元々企業に勤められていたとのことですが、現在の研究に関わるお仕事だったんでしょうか。


山川 そうですね。広告会社のマーケティング部門で実務を行っていました。そのときのプランニングのメソッドなんかを本にしてまとめたりはしていたので、まあ実務家で出版物をいくつか出していて研究者っぽいことをしているという感じはありました。


ーーどのような経緯で大学の教員になったのでしょうか。


山川 元々非常勤講師を30代ぐらいからやっていたんですけど、たまたまこの大学で新しい学科を作るということで、お誘いがありまして。色々と同じ研究会を開催したりとかで知り合いだった方に専任でそろそろやらないかと言われたんです。先生がそうおっしゃるんだったらしょうがないなという感じで、割と受け身でした。だから元々自分で研究者としてやっていこうっていう、あまりそういう心構えがないうちにズルズルと……。入ってから、そうか自分も研究者なのか、みたいな感じで(笑)。


最近の研究成果は「就職試験へのアプローチ」「クロスモダリティ」「アニメ作品」と多種多様!?

ーー現在の研究内容も企業に勤めていたときと変わらないのでしょうか。


山川 変わってるのか変わってないのかわからないですが、自分では自分のやっていることのアイデンティティはあるんですけど、人から見るとお前何者だみたいなことをよく言われることが結構あって。ちょっと最近の研究成果をご紹介しますね。


就職試験へのアプローチ

山川 例えば、2016年に書いた論文で、「説得能力を問う就職試験に対する創造技法からのアプローチ」というものがあります。よくクリエイティブ試験といって、発想力が問われる入社試験問題ってあるじゃないですか。あれってどういう風に解いていいか分からないんですね。そこで、それらを10個のパターン別に分けて、それぞれ試験課題とどんなコンピテンシー(*)が要求されて、それに対してどういう創造技法が対応するのかっていうようなことを研究しています。今、武蔵野美術大学でも非常勤講師をやってするんですけど、武蔵美の学生には非常に喜ばれたりしますね。

(*)コンピテンシー:企業の人事評価で、業績優秀者の行動の様式や特性。














▲ 創造性開発を専門とする山川教授が開発した「手塚キャラクター発想支援カード」。ゲーム感覚で短時間に大量のアイデアを生み出すことができる。



クロスモダリティ

山川 一方同じ学会で、2017年に書いたのが「クロスモダリティを活用したマーケティング」という論文ですね。マーケティングって大体、視覚・聴覚とかのコミュニケーションなんですけど、最近香りマーケティングだとか触感のいいアンダーウェアだとか、色々なアプローチがあって。



何かの視覚的な情報を与えた時に受け手側が聴覚的に補完するだとか、二つ以上の感覚がクロスされたところで、新しい感覚的な、経験価値的な場できてるって言うような事を色々書いています。


アニメ作品

山川 そして、2018年にやったのが「アニメ作品の受容における視聴者側の知識に関する考察 ~『鉄腕アトム』から『ポプテピピック』まで」というものです。これは、それぞれのアニメーションが視聴者にどのように受け入れられてきたのかっていうことを、視聴者側の持っている先行的な知識っていうことを切り口に書いたものですね。


例えば、『鉄腕アトム』もいきなり登場したわけじゃなくて、実写版が元々あって、それが手塚さんの時は黒歴史だったけど、相当人気だったんです。日本初のアニメって言うけど、その前の実写版が受けたので視聴率が上がったよ、っていう話とか。『宇宙戦艦ヤマト』や『エヴァンゲリオン』なんかの例も挙げたり。

『ポプテピピック』に至ると、もう全部パロディなので、かなり視聴者側の意識に依存した作りをしているわけですね。あのアニメのパロディだとか、あのドラマのこと言ってるんだな、というような。


で、この3つの研究を全部聞いていたある著名な先生が、「お前は一体何を研究しているんだ」と(笑)。


ーー確かに、「就職試験」から、「マーケティング」から、「アニメ」まで幅広い印象ですね。


山川 何か一本に絞りなさいと怒られました。だからちょっと取り散らかっていると言うか、一言で言うと難しいんですけど、純粋なマーケティングをやっているかっていうとそうではなくて、まぁ脇道に逸れてやっているの感じなので、なかなか第三者に説明しづらいところがありますね。まぁ一言で言うと、「ポストモダンマーケティング」と言って、これまでの、「アンケートを取ってこういう結論が出ました。だからこれをやりましょう。」っていうようなマーケティングじゃないような手法。その領域に入ることなんですけどね。


ーーなるほど。根底ではそのような共通点があるんですね。


山川 そのようなものがあるつもりなんですけど、「今年は何やるんだ?どんなネタでやるんだ?」みたいなことを聞かれたりもします。


そして、「詰将棋」にも繋がる?

山川 そしてこれがまぁ趣味みたいなものですが、「創作文化としての詰将棋発展史 ~伊藤宗印の改革と在野棋客の影響力を中心に」というものも書いてまして。これも実は関連しているんです。


詰将棋って、400年以上前から江戸時代の名人たちがたくさんの作品を作っていて、それが未だに我々詰将棋作家の模範となっているんです。ただ元禄時代くらいから、当時出てきたアマチュアの詰将棋作家のアイデアを柔軟に取り入れて、それを自分なりにアレンジして作る例も出てきたのではないかと思ってます。それまではひとりの名人候補者が、最高技術を持つ証として、自力ですべて創作するのがならわしでした。しかし時代が下ると、プロと素人とのインタラクティブで新しい創造物が生まれ、それらが最高峰と言われる作品につながったと考えています。


▲ 研究室の大盤には山川教授の創作した詰将棋も。最初の局面が矢印の形になっている、初形曲詰という珍しい詰将棋。


現代の消費社会でも同じような事がありますよね。例えば、商品開発にしてもアイデアを取り入れたり、漫画なんかもコミックマーケットから新しい作家がデビューするだとか。このように、プロと素人のインタラクティブを作り出すっていうのが、企業にとっての商品開発やプロモーションに、とても大事な要素なんです。


それをここでは「創発」という概念で説明しています。創発とは、消費者が自分の知恵や発想で商品の新しい使い方や価値を見出した結果で生まれる商品の進化、といった定義をしています。それが、今後の消費社会を創造的にしていくためのポイントだよ、みたいなことを書いていて、それは実は江戸時代の詰将棋作家も同じことをやっていたよていうのがこの話です。


全てに共通するのは受け手と送り手の関係

山川 20世紀のマーケティングっていうのは、マスメディアを使ってマスの消費者に対して、これぐらいのコストで、これぐらいの広告を投下したら、これだけ売れるというような、非常に一方通行的なコミュニケーションを前提としたマーケティングだったんですね。それを、受け手側のリアクションや価値創造にウェイトを置いたマーケティングコミュニケーションに変えなくちゃいけない、ということが私の一番主張したいことなんです。それに対する方法論というのが、ここ十数年間色々出てきてはいるんですけど。この分野だったらこうだとか、商品開発だったらこうだとか、後はコンテンツ産業でも同じことが言えて、漫画でもアニメでもそういうことが言えるっていうことですね。


今後コンテンツ財は、本を何冊売るとか視聴率何%とるとかだけではビジネスが成り立たないから、見た側・聞いた側が作品の世界観の中で遊ぶ仕組みを作り出して、そこに課金するような方法がいいよと。つまり受け手側がプレイヤーとして動き出すようなビジネスモデルに変えた方がいいよ、というようなことを言ってるんですね。


物語の世界で遊びだすって言うことが結局は一番楽しい消費のあり方。それは、DVDを見ることでも映画館に行くことでもなくて、自分たちでその物語を遊ぶっていう消費の仕方を多様な形で定義するのが、これからのコンテンツビジネスなんだよということを言ったりもしていますね。


ーー根底にある考え方が見えた気がします。


山川 結局、企業と消費者の関係っていうのは継続的な関係をしなくちゃいけない。それは消費者の手に移った後の商品がどういう風に変化していくかとか、発展していくかということを踏まえた上での商品のあり方っていうのを考えなくちゃいけないということ。そこが今一番面白い領域かな、という感じですね。


今の時代に求められる会社とは?

ーーそのような時代に、会社としてどのような戦略を考えれば良いのでしょうか。


山川 そのあたりは、最近『応援される会社 熱いファンがつく仕組みづくり』(光文社新書)という本を出しました。例えば同じような時期に異物混入事件を起こした企業があって、片方は世間からバッシングされたのに、もう片方は「がんばれ!復活を待ってるぜ」といったツイートが集まったわけです。


大企業であるだとか、強すぎるだとかで、同じような不祥事を起こしても消費者の反応が全く違うっていうところが面白いよねっていうところから話が始まって、応援される会社の条件って何だろうっていうのを考えてまとめています。経営者の姿勢だとかブランドだとか色々なものがあるので一概には言えないんですが、一応ここでは4つの条件っていう形でまとめています。


価値観や理念も大事だし、あとは「弱さ」。強い会社よりも手を差し伸べたくなるような。そういう意味で、普段から自分の弱みを見せてオープンにしておかなくちゃいけないとかね。そういうことも一つの条件なんじゃないかと。


松岡正剛さんが「フラジャイル」という概念で説明されていますが、日本って、そのフラジャイルが素敵みたいなところがある気がして。弱くていいんだとか、ダサくていいんだとか、小さくていいんだ、というような。かつての高度経済成長時代に求められた、強いだとか大きいだとか、そっちの方向じゃないところに評価軸が向いている。それは、企業が主役なんじゃなくて、これまで受け手と見なされていた消費者側が主役になっているからってことですよね。自分が何とかしてあげる、ブランドは私の物だから私が何とかしてあげるとかいう感じで。このように、プレイヤーは企業じゃなくてもはや消費者であるって考え方に立った方がいろんなことが説明しやすいんです。


ーー先ほどの研究の話とも近いですね。


山川 そうですね。一応、先ほどの話とも通底しているつもりではいます。


ゼミの活動 - 企業や地域社会との連携 -

ーーゼミではどのような活動をされているのでしょうか。


山川 プロジェクト学習という形で、企業から何か課題を頂いて、それを学生と一緒に考えようというようなことをやっていますね。例えば、花王さんから話があったり。国際こども環境コンテストっていうのを10年ぐらいやっていて、非常に質の高い絵がいっぱいあるんですよ。これもったいないから何か使えませんかって話がありましたね。


これでカードゲームみたいなものを作ったりしたら面白くないですか、ということで子供たちに環境啓発するようなゲームを作りました。


ーー学生がアイデアを出すという感じでしょうか。


山川 そうですね。アイデア出してもらったり、テストプレイをやったり。あとは、ボードゲームショップ連れてったり、ゲームデザイナー呼んでレクチャーしてもらったりと、色々やりましたね。


ーー企業とはどのような形で連携しているのでしょうか。


山川 企業側の方が社会貢献的に大学に対してある程度スポンサードもしてあげるから、うちを素材にテーマで考えてくれないかという形だったり、こっちからお願いをして、是非商品について学生が考えるので提案だけでも聞いてくれませんか、というようなこともあります。


これは、高田馬場にある手塚プロダクションと一緒にやった事例ですね。



高田馬場って、あの手塚治虫先生が仕事場にしていた街なのですが、手塚キャラクターグッズが売られていない、そういえば高田馬場みやげってないよね、と。じゃあみんなで考えようということで、手塚プロからの許可をもらって学生にアイデアを出してもらったんですね。


ーー実際に企業の人と話す機会があるのはとても良いですね。


山川 結構学生って企業の人って怖いって思ってたりするんですよ。だけど、実際会って話したりすると割と向こうも悩んでたりとか、それ面白いねと言ってもらえたりとか、敷居低かったりとかする。特に地元の中小企業に、大学の応援団になってもらうってことも含めて、色々なことを巻き込んでやろうということで。まぁここから商品化されたという例があるというわけじゃないんですけど、学生が街、地域の中小企業が分かるっていうような課題を与えていますね。


このように、マーケティングって理屈や過去の事例ばっかり教えててもそんな面白くないので、実際に地域の企業からお題をもらって、よりリアルに近いところで考えていくっていうようなことをやってます。



山川悟ゼミナール(東京富士大学)

https://www.fuji.ac.jp/academics/seminar/yamakawa/



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東京富士大学経営学部
マーケティング分野(商品開発、消費者行動分析、広告企画、プロモーション開発、コンテンツビジネスなど)について深く学び、地域社会や企業に対して新しい提案をしていけるゼミを目指しています。当ゼミは、教室内にとどまることなく、社会や企業との接点の中から、実践的な学びを志向していきたいと思っています。
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