スポーツ流体研究室

工学院大学工学部機械工学科

インタビュー
2019.12.08

スポーツ界の常識を覆す「流体力学」って何?|工学院大学 伊藤慎一郎教授インタビュー

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工学院大学工学部機械工学科の伊藤慎一郎教授にインタビューしてきました。

主な研究テーマは「スポーツ」「流体力学」


「スポーツ」と「流体力学」がどのように繋がるのか?

スポーツ好きが集まる研究室はどんな雰囲気?


様々な角度からスポーツ流体研究室の魅力に迫ります。


「スポーツ」と「流体力学」でより良いボールの開発へ

ーーまず初めに現在の研究内容について教えていただけますか?


伊藤 今はスポーツとしては「ボール」がメインですね。サッカーボール、バレーボール、ゴルフ、テニスの硬式・軟式など、それらの空力特性や飛翔弾道を見ています。


例えば、サッカーボールと言っても色々な種類あるんですよ。昔はパネルが白黒の六角形・五角形だったんですけど、今はもうワールドカップごとにという感じで新しいボールが出ています。これが、「チームガイスト」って言うサッカーボールなんですけど、これがサッカーボールのパネルが変化した最初のものです。



ーーパネルが変わることによって何が変わるのでしょうか?


伊藤 パネルが変わることで、軌道が変わるんですね。一頃は無回転のブレ球シュートっていうのが流行っていたんですけど、今はブレ球はあまりよろしくないということで、ブレ球ができないようなサッカーボールになっています。


ーーどのようなボールが良いボールなのか、評価軸というのはあるのでしょうか?


伊藤 まずはプレーヤーの望んだところに飛んでいくということですね。自分で意識して変化球が生まれるとか、プレイヤーの意思をしっかり反映するようなボールを作って欲しいっていうのが業界のスタンスですね。


昔のサッカーボールはたまたまブレ球が生まれてしまって、それがもてはやされた時期があるんですけど。それよりは、キーパーがいないところにしっかり蹴ろう、それが真っ当な攻め方でしょ、という感じで進んでいます。



学生時代の研究は捨ててしまった!?

ーー学生時代から現在の研究をされていたんですか?


伊藤 東大で学位を取った後は,防衛大の先生になって機械の流体力学を教えていました。流体力学っていうとパッと頭に浮かぶのが航空機だとかそっちの方だと思います。あれは外部流体といって、外側を流れる、それによって姿勢が変わったりというものなんです。私は、ポンプとか舶用プロペラっていう内部流体力学で、学位を取りました。


そんなことをやっていると、性能を数パーセント上げるだとか、それでもすごいことなんですけど、重箱の隅をつつくような感じのことばかりで、つまんないなと思って。


そのときに、生き物で流体力学ってできないのかなと思って。ずっと子供の頃から生き物が好きだったんですよ。それで、東大の東昭先生という先生に、まぁ早い話が弟子入りしました。一からもう一回大学院生になりました。


ーーそれまでの研究とは全く関係なく?


伊藤 そうですね。もうそれまでの研究は捨てたという感じですね。本当捨てました(笑)。




「生き物」との出会いから「スポーツ」への軌跡

運命を変えるスッポンとの出会い

伊藤 そして生物流体を教えていただいているときに、たまたま「所さんの目がテン」っていうテレビで、スッポンと普通のカメ(クサガメ)の違いを教えてくださいっていう依頼が来たんですよ。それでスッポンをやってみると結構面白くて。


そのままそのカメを貸してくださいっていう感じで借りて、スッポンの泳ぎとカメの泳ぎっていうのを一生懸命やってみたんです。泳ぎを数式に直したんですね。そうすると、割と理論値と泳いでる時のスピードだとかが結構うまくいったんです。


そこで一つの大発見として、「省エネモード」と「最速モード」という二つのモードがあるんだなと。人間で言うと「歩き」と「走り」ですね。全ての動物にとって省エネモード最速モードってのがあるんですよ。


これはひょっとして人間の泳ぎにも当てはまるんじゃないかなと思って、水泳をやりだしたんです。


スッポンから人間へ、そして水泳界の常識を覆す理論とは?

ーーここで「スポーツ」に繋がるんですね。


伊藤 そうですね。スッポンの泳ぎから、人間の水泳にいきました。水泳の方にいってみると、クロールの泳ぎ方も省エネモードと最速モードっていうのがはっきり分かれたんです。


そして私の研究になくてはならないのが、イアンソープなんです。



当時の世界チャンピオンだったんですけど、泳ぎ方が独特だった。そこで、スッポンとカメっていうのが応用できる。


腕をいかにして使いましょうかっていうことなんですけど、手のひらをメインで考えました。手のひらをちょうど飛行機の翼みたいに考えてやるんです。揚力、抗力があって合力になって……という感じで、これがベースになってます。



推進効率最大はっていうので見てみると、数式に従ってやってみると斜めがいいんですよ。それが結局、S字プルなんです。一方、推力最大でやってみるとどうなったかっていうと、I字プルになるんです。



これ自体は新しいものでもなんでもなくて、大昔からあった泳ぎ方なんですよ。ただ当時の競泳のメインは短距離も長距離もS字プル泳法だった。


ところで、陸上では短距離と長距離のフォームは明らかに違いますよね。自動車でもスピード重視のレーシングカーと燃費重視の乗用車で住み分けしています。飛行機も、機動性とスピードの戦闘機とコストパフォーマンスの旅客機で住み分けしています。そんなことを考えてみると、水泳も住み分けすべきじゃないのなんてことを思うわけです。


ただいくらなんでもエネルギー使いすぎたら困るよね、ということで調べてみると、S字に比べI字だと11%も推進力が増すのに対し、効率は2.4%しか下がらないんですよ。だったらどっちを選びますか、っていう話ですね。当時、他の選手はほとんどS字で泳いている中、イアンソープはI字だった。全日本も全員S字でしたね。


そこで、2002年にそれを提唱したんですけど、誰も見向きもしてくれなかった。水泳連盟は、それは理論でしょ、理論と実践は違うんだからって。けれども、どんどんやってみるとおや違うな、どうも伊藤の言ってることは正しいみたいだと。そこで日本の水泳連盟が舵を切ったのが北京の前くらいですね。でも北京っていうのはご存知の通りその当時水着戦争だったんです。泳ぎ方って言うよりも水着でタイムを伸ばすっていう方にいったところだったので、あんまり着目されなかった。でもその前から日本は泳ぎ方の方に舵を切ってました。


今後の水泳界への提唱

伊藤 あとは生き物と比べてというような話があるんですけど、体長が長ければ長いほど速度は速くなりますよっていうような傾向があります。例えば、クジラは体長30メートルのやつで普通の泳ぎ方で毎秒10メートル進むんですよ。同じことを水泳で見てみると、やっぱりこれも身長があればスピードが速くなるということが得られています。


日本は世界と比べると身長も低いですよね。そこで身長伸ばしましょうねっていうのが私の理論と言うか提唱なんです。


サッカー、バレーボールへの広がり

伊藤 そういうふうにして水泳をやってると、今度は水泳ばっかりじゃなくてボールっていうことになって。じゃあボールはどうなっているんだろうねってことでサッカーボール、バレーボールをやってという感じですね。


ボールってそれなりに色々なことが解決されているのかなっていうとそうでもなくてですね。突っ込めば突っ込むほど色々なことが出てきますね。例えば、ゴルフボールはディンプルがどうのこうのとか。学生がやっていることでいえば、テニスの硬式球で新品と使い古しがどう違うのかななんてことをやってます。


ーー元々生き物から始まって、様々なスポーツに広がっていくのが面白いですね。


伊藤 今やってるのはスポーツがメインになりますけど、生き物のこととかもやったりはしていますね。




スポーツ系の研究室なのに、実は運動音痴?

ーーご自身はスポーツはされないんですか?


伊藤 私は完全に運動音痴ですね。水泳、サッカー、テニス……全て(笑)。研究室の名前が「スポーツ流体研究室」っていうので幸いにしてスポーツ好きな学生が多く集まってきますね。だからスポーツの種類には困らないですね。野球もいればテニスもいればサッカーもいて、という感じで。


ただ、自分がスポーツをやらないから見えるっていうところもあるのかなって思いますね。だからI字泳法だって、当初は非常識な泳ぎって言われたんですよ。自分自身がやらないからこそかえって非常識なことを提案できるっていうところもあると思います。


研究室配属の学生を成績で選ばない理由とは

ーー最後に研究室に関してお聞きしたいのですが、どのような指導方針で教育を行っていますか?


伊藤 なるべく自主性を重んじるという感じですね。学生たちも自ら進んでやってくれるので。それは研究室の雰囲気と言うか、私がほったらかしていてもやってくれているような所があって、それには恵まれています。


幸いにしてすごく人気のある研究室なんですけど、実は学生選ぶときに研究室の学生が次の研究室志望者を面接で選ぶんですよ。


ーー成績とかではないんですか?


伊藤 はい。当初は成績で選んでいたんですけど、成績で選んでるとなんかちょっといびつな感じになったりして。雰囲気がまるっきり違う人が研究室に来てもその学生にとってストレスになっちゃいますからね。それよりは、学生が選んでくれた方がむしろ鍛えがいがあるのかなという感じがしています。成績で選んでいた頃と比べると、今の方がずっと研究室の活気はありますね。


ーーせっかく学生がいらっしゃるので、学生からのお話もお聞きしたいのですが、研究室の雰囲気はどのような感じですか?




学生 スポーツ系出身が多いので雰囲気としては明るい研究室という感じです。コアタイムが週一のゼミ以外は特に決まってないくて、それ以外はフリーなので、先ほど先生も仰ったとおり自主性を重んじてくれる感じですね。


かといって学部生の上には修士が付いていますし、修士は先生が勝手に学会に申し込むので、「その学会に間に合わせないと!」という危機感もありますね。


伊藤 勝手に申し込んじゃうからね。申し込むと、そこをめがけてターゲットでやらざるを得ないですから。やっぱり人間締め切りっていうのが大事なんですよね。私もそうですが、やっぱり締め切りがないと動かない。

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スポーツと流体力学には密接な関係があります。スピードを要求されるスポーツには、必ず流体抵抗が関係します。流体力学の成果はスポーツテクニックや、新たなスポーツ用具の開発にもつながります。日本人に金メダルをもたらすことを目標として、工学的観点からスポーツを研究しています。
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