管原研究室

弘前大学農学生命科学部

インタビュー
2020.10.04

バッタの生命現象のメカニズムを解明する!|弘前大学管原亮平先生インタビュー【前編】

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弘前大学農学生命環境学部昆虫学研究室の管原亮平先生のオンラインインタビューです。


いろんな角度からバッタの研究をされている管原研究室。

遺伝子の機能解析での新発見から最近海外で問題になっているトビバッタの大発生まで幅広くお話を伺いました。


バッタの分子生物学や生理学ってどんな研究?


はじめに研究内容について聞かせてください。


管原

バッタの分子生物学や生理学をしています。
研究室内でバッタを飼育して、それを使って研究することがメインです。


色んな昆虫をテーマにするのではなく、バッタに絞った研究をされているんですか。


管原

昆虫を飼育するのは労力がかかるので、一般的に昆虫を絞って研究する研究室が多いですね。


具体的には、これまでどんな研究をされていたのですか?


管原

バッタの遺伝子を使ってその機能を探ったりしています。
また、今海外で問題になっているトビバッタは生育する時の個体の密度によって行動や見た目、生理状態が変わるなど、いろんな変化を示すんですね。
それがどういうメカニズムで起こっているかを調べていました。


遺伝子から昆虫の生態まで、色んな角度で昆虫を研究されているんですね!


管原

実験していると「なんでこうなるんだろう?」という様な変なことが起こるんです。思いもよらない結果が得られたり。
現象に向き合って原因を調べていると、また新しい発見があったりします。


目の前に出てくる疑問をどんどん解決していくというようなやり方で、興味の赴くままに研究をするというのが基本的なスタンスですね。


興味の赴くままに……良いですね!


管原

無駄な研究をするのはエレガントではないという考えで、机の上で練りに練って必要最小限の実験をして、自分のエレガントな発想を証明するのがいいというタイプの人もいますが、私が目指しているスタイルは色々やっているとなにか変なことがでてくるので、無駄でもいいのでとりあえず取り組んでみます


徹底的に取り組んでみると新しいことがわかるので、それが見えてきたらそこにフォーカスしてやっていくというスタイルがいいんじゃないかと思ってます。


そのようなスタイルだと意外な発見なんかも生まれそうです。


管原

例えば、バッタの体色の研究をしているときに、RNAiという遺伝子の発現を抑制する方法を使ってある特定の遺伝子の機能を失わせ、バッタの体色が変化するかという実験をしました。


サバクトビバッタで実験したら成功したのに、トノサマバッタで同様のことをやってみたら全然上手くいかなかったんです。


バッタの種類によって反応が違うんですね。それでどうされたんですか?


管原

注射を打つタイミングや量を変えてみたり、色々と試してみましたがやっぱり全然上手くいかなかった。
サバクトビバッタで成功したので諦めてもよかったんですが、目の前に不思議な現象があるので引き続きやっていたら、実験によって同じトノサマバッタでもうまくいったりいかなかったりしたんです。


原因はなんだったのですか?


管原

結局、原因はトノサマバッタの系統が違ったんです。
系統が違うことでRNAiが効いたり、効かなかったりするという知見は、私が知っている限りではなかった。


諦めずに続けたことで、新しい発見があったのですね!


管原

蚕では、RNAiが上手く機能しないというのがわかっているのですが、基本的にバッタは効くんです。


昆虫の種類によってRNAiの有効性に違いがあることはわかっているんですが、どこで採取したかという地理的な系統で変わるという知見はありませんでした。
ところが調べていくと、地理的な系統によってRNAiの効き方が違うという知見が出てきました。


同じ種類のバッタでも採った場所によって変わるとは驚きです。


管原

農薬は化合物を撒いて昆虫を殺すのですが、薬剤抵抗性といって農薬が効かない個体がでてきたりするんですね。
これを克服するためにRNAiという手法を使って農薬として使用できるか確かめるんです。


私の知見の通りに地理的な系統が関係するなら、例えば沖縄では効くけど東京では効かないといったことが起こり得るわけです。
こういうことが後で発覚しても困るので、そういう意味では農薬の分野では役に立つ、結構重要な知見だと思います。


こんな風にして研究結果が実用に結びついていくのはすごく興味深いです。


管原

論文を出したところ、他の昆虫でも地理的な系統によって効くものと効かないものがあるという報告が世界的に出てきました。
きっかけはすごく些細なことなのですが、それが立派な一つの知見に繋がった
こういうことは結構よくあるんですよね。


些細なことでも変な現象を見逃さず向き合うことで発見があるのですね!


管原

なんか不思議だなと思ったことは、面倒臭くてもとりあえずやり遂げてみるというのが大事だと思います。
そういうのが生物系の醍醐味ですね。



行動やカタチを変えて大移動!トビバッタの大発生

個体の密度によってバッタの行動が変わるというお話がありましたが、もう少し詳しく聞かせていただけますか。


管原

密度が低いバッタの状態を孤独相、高い状態を群生相といいます。


同じバッタでも全然違う行動を示すんですね!


管原

その変化はいきなり孤独相から群生相になるわけじゃなく徐々に変わっていきます。


行動が変わると言いましたが、見た目も変化します。
でも行動と見た目、それぞれの制御機構はどうやら違うんですよ。


先に行動が変わってその後見た目が変わるので、行動は群生相で、見た目は孤独相といった個体もあり得るんですね。


最近ニュースになっているバッタの大発生に関連する研究もされていますか?


管原

私は大発生を抑える「防除」をテーマにしてきたわけではないので専門というわけではないですが、自分なりにバッタに対する疑問にお答えするという形でお話はできます。


大量発生の原因はどんな風にお考えですか?


管原

まず、コロナとの関係について聞かれるのですが、発覚した時期が近いけれど直接的には影響はないと思います。


2018年に大発生のきっかけが始まっています。
サイクロンが乾燥した地域に訪れて雨をたくさん降らせて、そのせいでバッタの餌となる草が生えたことで大発生しました。草さえあればバッタは増えることができるので。


サイクロンによる大雨が引き金だったとは。


管原

そもそも乾燥していた地域で天敵になるような鳥や昆虫があまりいない。バッタが増えれば後を追って天敵も増えますが、バッタの方が増殖スピードが速いので一気にバッタが増えるんですね。
増えたバッタは群生相化して大移動します。そして、新しい場所へ移動してそこでも一気に増える。


大発生はこういうメカニズムで起こっています。


行動やカタチを変えて、新しい場所へ移動するなんてたくましい!


管原

地球温暖化のせいだとか、人間による環境への影響により引き起こされたというような文脈で言われることもあるけど、実はバッタにとっては普通のことで、昔からこういう風に大発生するんです。


大発生後15〜20年続くことは、これまでも普通にあります。
例えば、70年とか100年とかに一度起こるくらいの規模の話なんです。


日本で大発生の可能性はありますか?


管原

今海外で話題になっているのはサバクトビバッタですが、日本でも問題になっていたのはトノサマバッタです。
トノサマバッタはトビバッタなので大発生する能力を秘めています。


過去に北海道で大発生して問題になったり、宮古島にフィリピンの方から大群が押し寄せてきて大被害を受けた報告もあります。
大発生は決して他人事の話ではない、でもめったに起こらないという感じですね。



【インタビュー後編】

コオロギだけじゃない!注目の昆虫食、トノサマバッタはエコなタンパク源?【後編】

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