生物機能開発学研究室

東京農業大学農学部デザイン農学科

インタビュー
2020.06.26

発見するだけが科学じゃない!発明・発売まで行う研究室|東京農業大学長島孝行教授インタビュー【後編】

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東京農業大学農学部デザイン農学科の長島孝行教授にお話を伺ってきました。


前編では、生き物の仕組みから学んで社会に役立てる「インセクトテクノロジー」について話していただきました。


後編では、長島先生が大切にしている「発見・発明・発売」を行なった事例の一つであるニューシルクロードプロジェクトについてお話していただきます。



シルクを使った発見・発明・発売

「生き物から学び、社会に落とし込む」というお話でしたが、それを実現する人間のテクノロジーもすごいですね!


長島

そうですね。日本の町工場の技術と科学者がタッグを組むといろんなことが出来ます。
ただし、人類にはできるものとできないものがあるんです。


できないものって、例えばどういうことですか?


長島

シルクってありますよね。僕は以前、蚕ではなく細胞にシルクを作らせようとしたことがあったんです。
でもやっているうちに分かりました。細胞にシルクを作らせても、できる量がごくわずかで、できたとしてもとんでもないエネルギーをかける必要がある。こういうのは次世代型ではないですね。


そういうこともあり、やはり蚕に作ってもらおうと、蚕が作ったシルクの性質を調べ始めました。



そこから「発見」が始まるわけですね?


長島

その通り。蚕が作った絹を調べていくと、カビがはえない、紫外線を遮蔽する、油を吸着する、アトピー性皮膚炎の人が触れても炎症が起こらないなどの性質が分かりました。


そして、ここから発明のフェーズに入ります。
これらの性質を持つシルクをあるものと組み合わせるんです。


何と組み合わせるんでしょうか……?


長島

シルクと化粧品を組み合わせました。
油を吸着して、紫外線を遮蔽して、皮膚炎も起こらない、こういう性質は化粧品や美容液にもってこいですね。
しかも、素材がシルクなので、口に入れてしまっても安心です。


実際に、そういう化粧品を作って、発売もしました。


実際に商品があるんですね!


長島

商品まで作るのがうちの研究室の特徴です。
今までゴミにしてしまっていた糸にならない繭を、化粧品に加工することによって、すごい付加価値が出ます。


とても画期的ですね!



製品化に留まらない!農福連携って何?

ところで、今日本でシルクって生産されているんですか?


長島

そこも問題でした。かつて日本はシルクを生産・輸出して、実質世界一の地位を占めていたんです。
しかしそれをやめてしまい、結果として繊維の自給率がゼロに限りなく近くなってしまった。


限りなくゼロに……。


長島

そんな状況を見て、僕は次世代の形でシルクを生産する必要があると感じました。
それで行なっているのがニューシルクロードプロジェクトです。


それはどのような取り組みをされているんでしょうか?


長島

まずは、養蚕を全てロボティクス化して、人間が入らない状態で養蚕をする工場を作りました。
そうすることで、日本のシルクの自給率を上げました。
また、その工場で出てきたクズ糸から、化粧品などの商品を作っています。


今注目されているAIによる自動化ですね!


長島

それだけではありません。我々は、農福連携という取り組みもしています。


農業の「農」と……「福」は何を意味しているのでしょうか?


長島

「福」は福祉からきています。
高齢者施設や障害者施設の利用者に蚕を飼ってもらうんです。


そうすることで、養蚕の自給率上昇にも繋がりますし、
施設利用者の「社会に役立ちたい」という想いも実現することができます。


福祉のことまで。まさにソーシャルデザイン!
本当に様々な取り組みをされていらっしゃるんですね。


長島

難しい科学の話題を分かりやすく伝えていく教育やコミュニケーションについても、様々取り組んでいるところです。


こういう取り組みを含めた科学の面白さを伝えていくことも、我々の仕事だと思っています。




【前編】

クジャクはなぜ綺麗?生き物から学び社会に役立てる、インセクトテクノロジーとは|東京農業大学長島孝行教授インタビュー【前編】


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昆虫は約4億年前から地球上で繁栄して様々な環境で暮せる体に進化してきました。 そこには、人間が未だ科学の力で作ることが出来ないナノ構造や、 実に研ぎすまされた機能性と安全性があることがわかってきました。 私たちの研究室では昆虫をはじめとした生物のもつ機能を解明して、 そのしくみを人間の役に立てようという技術の研究を進めています。 これが「インセクトテクノロジー」という技術です。
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