川村康文研究室
東京理科大学理学部第一部物理学科
インタビュー
2020.03.12
大人になってからでも遅くない?自然エネルギーとサイエンスコミュニケーションで、物理の楽しさを|東京理科大学川村康文教授インタビュー【前編】
今回は東京理科大学理学部第一部物理学科の川村康文教授にお話を伺ってきました。
川村先生は太陽光発電や風力発電といった自然エネルギーの研究、そしてサイエンスコミュニケーションの研究をされています。
物理の本を執筆されたり、理科の楽しさを伝える実験教室を開催するなど、「サイエンスを楽しく伝える人」を育てられている川村先生の熱い想いを前編後編に渡ってお伝えします。
自然エネルギーは実社会での物理の実践!
はじめに、現在の研究内容について聞かせてください。
川村
自然エネルギーと物理教育を含めたサイエンスコミュニケーションの2つですね。研究している人が少ない分野なんですね。
川村
そもそも風力発電は発電量が少ないんですね。中でもサボニウス型風車風力発電機というのは、発電効率が良くないと言われているタイプの風力発電なんです。ただ、色素増感太陽電池の方は、2019年の4月にリコーとフジクラが製品化しました。
間違った研究をしていたというわけではなく、製品化に至るような物の途上なんです。
自然エネルギーをテーマにする理由はなんでしょうか?
川村
一般の人に「物理って役に立たないよね」と言われるけれど、物理はいろんなことの役に立つことが分かってもらえたらいいなと思って。それで、太陽光発電と風力発電をやっています。オンサイト発電で叶える電力のセキュリティ網
自然エネルギーは3.11の後に注目されましたが、研究にも影響はありましたか?
川村
3.11の後に、文部科学省系団体の日本科学技術振興機構(JST)の故・北澤宏一理事長が電話をくださったんです。風力発電をやってる人達から、「川村の研究はままごとだ」と言われてたんだけど、理事長さんから「川村さんのままごとが、3.11の後は役に立つ時が来たんだから、風評や噂を気にせずに突き詰めてやってほしい」と言われて。
激励を受けたんですね!
災害時に役立つ発電というとどのようなものでしょうか?
川村
都会は電気については裕福だけど、地震や台風のような大きな災害があれば、東京のような都会も電気が止まってしまう。東京の電気は、新潟や福島で発電したのを引っ張ってきてるんです。電気の生産地から送ってくるけど、そのシステムが崩れてしまったら供給できなくなります。予備電源があるので何日かはもちますが。
そのような場合に役立つのがオンサイト発電です。
オンサイト発電ですか。
川村
一番は燃料電池、あとは太陽電池パネルや風力発電機ですね。太陽電池パネルは個人宅につけることが多いんですけど、サボニウス型風車風力発電機なんかはビジネス街のビルに上手くつけると、災害時でも電力に心配なくなりますね。
もっと普及してほしいですね!
川村
蓄電池の性能もあがっていますね。トヨタのハイブリッド車のプリウスや日産のリーフは電気を貯めておけるわけですけど、これとは別に自然に吹いている風で常に発電して、蓄電池に入れておく。そういうことをイメージしてもらえれば、大人の皆さんにサイエンスコミュニケーションとして出している情報が活きるのかなと思います。
大人になってからでも遅くない?サイエンスコミュニケーションが目指すもの。
大人向けに物理を分かりやすく解説する本なども出版されてますね。
川村
出版社の人に勧められたのがきっかけです。それまで子ども向けの科学の本を書いていたんですけど、編集者の方が「子どもに勉強してもらうことは大事だけれど、ビジネスマンが買ってくれるような本もお願いしたい」と、アドバイスされて。
出版社はビジネスとして成り立たないといけませんもんね……。
川村
そんな経緯で太陽光発電と風力発電の本を、一冊ずつ出したんです。大人の方々にはどんなことを伝えたいですか?
川村
物理が敬遠されたり、世の中の人から役に立たないとか言われることもあるけど、まさに発電というのは電磁誘導で、物理の根幹を成すような原理ですよね。フジコ・ヘミング、ラ・カンパネラ、漁師?
物理教育や科学分野の啓発活動を研究されていますが、サイエンスコミュニケーションの研究について聞かせてください。
川村
最近明石家さんまさんがやってたテレビ番組で「夢を叶えましょう」みたいな番組があって。その中で、フジコ・ヘミングの「ラ・カンパネラ」を聞いた漁師さんが感動して、その曲を練習してフジコさんに聞いてもらいたいという企画があったんです。
それは、すごいですね!
川村
「ラ・カンパネラ」って普通にピアノ弾ける人でも結構難しいんですよ。でも大人になってからでも全然遅くない。もっと物理好きな大人が増えてほしいという先生の熱い想いを感じます!
科学の知識と伝える力。サイエンスコミュニケーションを仕事に活かす
学生にはどんなことを期待しますか?
川村
サイエンスコミュニケーションを生業、仕事として生活していける人を育てたいと思っています。例えば、どんな仕事ですか?
川村
科学館や博物館などのインストラクター、そして学校の先生ですね。情熱をもった人が学校の先生になってほしいかな、と思ってます。
サイエンスコミュニケーションは、自然エネルギーの研究がもとで始められたのですか?
川村
同時並行でやっています。結局、「エネルギー問題」という言い方をしたときに、どうしても理工系の問題ではなくなるんですね。つまり、社会システムの中に組み込まれるんです。
なるほど。
川村
だから、サイエンスコミュニケーションの能力が必要になるんです。【インタビュー後編】
数式をはみ出したい!“そこにある物理”に魅せられて|東京理科大学川村康文教授インタビュー【後編】
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