数理モデリング研究室
法政大学生命科学部生命機能学科
インタビュー
2020.05.19
粘菌、コウモリ、ロボット……様々な自然現象を数学に落とし込む! 「数理モデル化」ってどんな研究?| 法政大学伊藤賢太郎先生インタビュー【前編】
法政大学生命科学部生命機能学科専任講師の伊藤賢太郎先生にお話を伺ってきました。
伊藤研究室では、粘菌をはじめとした様々な生物の振る舞いを、数理モデル化やシミュレーションを通して解明する研究を行なっています。
「数理モデル化ってどういうこと?」「粘菌ってどういう生き物?」「どういう経緯で今の研究にたどり着いたのか?」など、多岐に渡る内容を前後編の2回に分けてお送りします。
自然現象を数理モデル化する研究室
まず初めに、どのような研究をされているのかお聞かせいただけますか?
伊藤
色々な研究者に聞くと、「私の研究はこれです」と紹介できる人が多いと思うのですが、僕はかなり色々なことをやっているので、一言では表現するのが難しいです。ざっくりいうと、どれも数理モデル化になりますね。
数理モデル化とは、実際にどのようなことをやるんですか?
伊藤
世の中にはいろんな自然現象がありますよね。それらの現象に関して、「これだけの仕組みがあれば、この現象を説明できるんじゃない?」という骨組みだけ残して、それをもって現象を理解しようという分野ですね。僕はその中でも、細かい数値とかは気にせずに、「止まっていたものが振動しだした」などといった、定性的な研究を行なっています。
色々な現象を数理モデル化されているとのことですが、具体的に何を対象にしているんですか?
伊藤
最近では、粘菌やコウモリをメインに数理モデル化しています。過去にはロボットの研究室とコラボしたりもしていましたね。
本当に色々なものを扱うんですね!
伊藤
そうですね。今日は特に粘菌についてお話できればと思います。粘菌を数理モデル化!?
粘菌ってどんな生き物なんですか?
伊藤
我々が扱っているのは、粘菌の中でも真正粘菌という種類のものです。真正粘菌は単細胞生物で、雨の日とかに朽木から出てきたりしますね。
大きさは何十センチもあります。
単細胞生物と聞くと、小さそうなイメージがありますけど、そんなに大きいんですね!
伊藤
はい。さらに面白いのは、粘菌は1時間に1~2cmくらい這いながら移動するんですけど、這ったあとのところに管のようなものができて、血管みたいになるんです。この管を原形質が流れていて、人間でいう血液のような感じで養分のやり取りをしたりしています。
単細胞生物なのに血管みたいな仕組みも兼ね備えてるんですね!優秀……!
粘菌も「考える」?
粘菌のどのような現象について考察するんですか?
伊藤
最近は、粘菌が進んでいく方向に興味があって、それに関する研究をいくつかやっています。粘菌ってどういう風に進むんですか?
伊藤
粘菌をちょこんと置くと、最初は同心円状に広がろうとするんですけど、そうすると先端がどんどん薄くなってしまうんで、全方向に満遍なく広がらず、一方だけに広がっていったりするんです。まるで粘菌が考えて行動しているかのようですね!
伊藤
そうなんです。これは何気なくやった実験だったんですけど、面白いなって思って、これを再現する数理モデルを作りました。
実際にこの動きをどのように数理モデル化するんですか?
伊藤
僕の数理モデルでは、粘菌を横から見た状態を、シリンダーが何個も横一列に繋がって、その中に原形質が入っている状態として表現しました。そして、粘菌に流れている原形質の性質を、ざっくりとバネのようなものでモデル化します。
あとは、端っこのシリンダーがある一定の圧力を超えたら、隣のシリンダーに原形質が移る、という仕組みを入れました。
難しい……。
その数理モデルを使って、パソコンでシミュレーションしてみるということですか?
その数理モデルを使って、パソコンでシミュレーションしてみるということですか?
伊藤
そうですね。実際にこの数理モデルを使ってシミュレーションをしてみると、実際の粘菌の挙動と同じような結果になります。自分で組み立てた数理モデルで行なったシミュレーションが自然界の現象と同じようになるって、とても面白いですね!
粘菌に関する現象としては、他にはどんなテーマがあるんですか?
伊藤
例えば、寒天の上に作った迷路に粘菌を敷き詰めて、「粘菌が作る管が迷路のスタートとゴールを最短で結んでいるか」を確認する問題や、枝分かれしている道を粘菌がどのように進むかという問題などがありますね。粘菌に迷路を解かせたり、道を進ませたり……粘菌って賢いんですね!
(法政大学生命科学部生命機能学科数理モデリング研究室公式ホームページより転載)
【後編】
「動くもの」が好きな人にはオススメ?数理モデル化の研究の面白さとは| 法政大学伊藤賢太郎先生インタビュー【後編】