海洋変動力学研究室

九州大学総合理工学府大気海洋環境システム学専攻

インタビュー
2020.11.21

地球科学は羅針盤 !環境問題を経済活動のアクセルに|九州大学磯辺篤彦教授インタビュー【後編】

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九州大学総合理工学府大気海洋環境システム学専攻海洋変動力学研究室の磯辺篤彦教授のオンラインインタビュー後編です。


前編では海洋プラスチックごみの発生源を特定するコンピュータシミュレーションの開発や現在取り組まれているマイクロプラスチックの将来予測についての話を中心に伺いました。

後編は環境問題への新しい考え方やアプローチについて、また学生時代の研究のきっかけや研究室についてもお話を伺いました。



環境問題への新しい取り組み方について

海洋プラスチックごみのような環境問題は、今後どんな風に取り組んでいくとよいでしょうか?


磯辺

僕は環境問題に対する取り上げ方に誤解があると思うんです。


例えば、昔の環境問題、今も被害が続いている水俣病のような公害と言われた環境問題ですね。
あれは汚染源は工場で被害を受けたのは周辺住民。つまり、加害者と被害者が非常に明快に分かれたわけです。


極端な話、それなら被害を抑えるには加害者をやっつければいいんですよね。


今起こっている環境問題はそれとは違うのですか?


磯辺

プラスチックとか温室効果ガスは出しているのは僕らだし、被害を受けるのも僕らや僕らの次の世代。
被害者と加害者が重なりあうのが、現代の環境問題ですよね。


なるほど、自分自身が被害者でもあり加害者でもあると。


磯辺

昔の公害問題と同じアプローチで「プラスチックをやっつけろ」だとか、「温室効果ガスを全部なくしてしまえ」なんていうのは、現代の環境問題の解決アプローチとしては古すぎて、ちょっと使いものにならない。


現代の環境問題に対する正しいアプローチを社会には知って、取ってもらいたい。
だから、その為のエビデンスを出すのが僕らの仕事だという問題意識があります。


環境問題を経済活動のアクセルに

磯辺

最近産業界の方とお話する機会が増えているんですが、産業界の方が環境問題というのをちょっと勘違いしているところがあるかなという気がしてるんです。


それはどういうことですか?


磯辺

古いタイプの環境問題、公害問題は経済活動のブレーキなんですね。
ただ、それは古いタイプの環境問題に対する考え方だと思う。


では現代の環境問題をどのように考えれば良いのでしょうか。


磯辺

今は、環境問題は経済活動のアクセルになるんじゃないかと思います。


海洋プラスチックの問題が色々出てきて、プラスチックに代わる新しい素材を求める大きな市場が形成されつつある。エシカル消費というのですが、値段が高くてもそちらの製品を求めるような新しい市場ができています。


新しいマーケットができるところには、当然新しい経済が生まれるわけです。プラスチックに代わるような新素材を産業界で作ったとすればもの凄いマーケットなので、大儲けですよ。


なるほど!経済を発展させることにも繋がると。


磯辺

産業界の方には、ちょっと発想を変えて僕らとお話いただいた方がいいんじゃないですかとよく言っています。
アクセルとして考えてもらった時、僕らの地球科学はどういう方向に製品を作ったらいいのかという羅針盤になることができる。


科学が進むべき道を示すんですね。


磯辺

例えば、あるタイプの製品を産業界で考えている場合、僕らに聞いてもらうと「もしそれが地球環境に出た場合に、こういう負荷があるのでちょっと致命的ですよ」「いずれエシカル消費の市場には見放されますよ」というように言えるわけですよね。


すると、新しい製品の方向性がまた変わるわけです。


そうやって産業と科学が結びついていくと良いですね。


磯辺

経済界と環境科学との付き合い方が段々変わってきつつあるなか、気候変動や海洋プラスチックのような新しいタイプの環境問題への対応として、そういう変わり目にいるかなと特に最近実感しますね。



社会が科学リテラシーを身につけるには

被害者と加害者が重なるというお話がありましたが、一般の人にも科学的なリテラシーが必要になってきますよね。


磯辺

科学的なリテラシーって難しいですよね。これは僕らの責任でもあるのですが、報道機関を含めて非常に科学リテラシーがないなと思いました。
原典に遡らないで、その発言がどこから出てきたのかをちゃんと見ないことが多いと思います。


科学者側にはどんな役割がありますか?


磯辺

科学者も悪くて、査読論文にもしてないことをペラペラ喋る人が多すぎると思います。


査読論文ってあるじゃないですか。論文を出すということは、厳しい査読を通り抜けてやっと載せられる。論文というのは査読者のやり取りで修正されていき、科学者は査読を通して成長するんですね。


一旦プロの科学者になった人は、誰も教えてくれないし、教えてくれるのは査読者しかいない。査読者との厳しいやり取りを通して新しいスキルも身に着けるし、論理構成も磨いていく。


そのやり取りを通した仕事こそ価値があって、査読を通した論文こそ真実に最も近いわけですね。
つまり僕らにとっては、査読論文が完成された商品なわけです。


査読って本当大変なんですよね。


磯辺

あくまで査読論文を経た結果のみ、あるいは最低限それを元に確実に言えることのみを言うべきであって、そうじゃない場合は「そうでないんですけど、すみません」と、一言社会に言わなきゃいけない。


それをしない科学者が一定数いるもんだから、世の中の科学リテラシーはどんどん下がっていくということはあると思います。


どうすれば科学リテラシーは上がっていくのでしょうか。


磯辺

一般の人たちはそれが査読論文かどうかちゃんと見極めてほしいと思います。難しいですけどね。


例えば、東京大学が発表したからとか、国連環境計画が出したからというのは、査読とは全く関係ない話です。


研究というのはあくまで個人が論文として発表するものであって、何々大学がとか、権威ある政府機関の話だいうところに頼りがちなのも科学リテラシーのないところだなと思います。



学生時代、研究のきっかけ

話は変わりますが、研究者になろうと思ったきっかけや学生時代の研究について聞かせて下さい。


磯辺

最初は大学で土木工学をやろうと思ってました。ある日、土木工学の授業を受けてたら、それがつまらないんですよね。その当時思ったのは、土木工学って経験則が多いんですよ。


例えば、土砂崩れを扱う時に、土砂の崩れ方は円弧を描いて、その淵に沿った形で滑るとまず仮定して、それから力学計算を始めていくんです。結構いい仮定なんだけど、頭を使うとこ全然ないなという感じですね。


要は技術書通りにやればできて、新しいものを作るというより技術書を学ぶというのが土木工学のあり方だと思い込んでしまって、ほんとつまらないなと思ったんですね。


なるほど、それで方向転換されたのですか?


磯辺

大学もつまらないなと思っていたんですが、海洋物流学の授業を受けたら先生は早口で数式ばっかりですごく難しくて、実感としていまいち捉えどころがなかった。
唯一先生自身がめっちゃ楽しそうだったんです。


この授業ってめっちゃ難しくてようわからんし、しかも先生はいかつい顔したおじさん。その人がこんなに楽しそうにやるんだから、これはきっと面白いものに違いないと思ったんです。


印象的な先生との出会いが、海洋物理学をはじめるきっかけだったのですね。


磯辺

研究者になろうという感じではなかったけれど、これが研究をやってみたいと思った最初のきっかけです。


今、僕の理想とする講義はその先生の講義なんです。
「この先生なに言ってるか全然わからないんだけど、なんかおもしろそう」と思わせる講義が僕の理想です。


僕が非常にサービス精神が過多で学生にわかりやすいことをしてしまう。だから、全然よくないんです(笑)。


わかりやすいに越したことはないですが、よくわかんないけどおもしろそうって思わせるのも大事な気がします(笑)。


磯辺

先生が楽しそうにやってないと、見てる人もつまらないですよね。
だから楽しそうにやってくれないと、いい大人は。



知性の島の海岸に立つ経験を

研究室についても聞かせてください。


磯辺

研究室はとにかく僕ら教師陣は楽しそうにやろうと思ってます。それを見て学生が楽しんでくれればいい。
やっぱり科学っておもしろいっていうことを知ってほしいですね。


科学のおもしろさって、先生はどんなところだと思われますか?


磯辺

わからないことがわかった瞬間。そのことがわかっているのは世界でその人だけですからね。


「人間の知恵」というのが「島」としたら、人類が進化するとその島が大きくなっていくんですね。
新しいことがわかった瞬間ってその島の端っこに立っていて、その先はもう海で知恵の陸地はないわけです。
ほんの細やかな発見だけど、その瞬間少なくともどこかの海岸の端っこ、人間の知性の端っこに立っているわけです。


それは、なんか素敵なことだと思うんですよね。


「人間の知性の端っこ」って素敵な言葉ですね。


磯辺

その海岸に立てるかどうか、つまりまだ遠くになにかあるなというのが見渡せるような経験を、少しでもいいから色んな学生に味わってもらいたい。
卒論でもわずかな瞬間そういうことがあった方がいいかなという気はします。



学生指導で心がけていること

学生指導で心掛けられていることはありますか?


磯辺

こちらの価値観を押し付けないようにしています。
こっちが言うことが絶対正しいということは全然ないわけですよね。学生が言ってくることのほうが実は合理的だったり、おもしろかったり、新しい視点だったりすることもあるわけなので、それを見逃さないようには気を遣ってます。


学生の意見にも柔軟に耳を傾けられているんですね。


磯辺

もうひとつ、すごくいやらしい言い方をしますが、僕の研究室は海洋プラスチックの非常に大きなプロジェクトを僕をリーダーとしてさせてもらっていて、研究資金は潤沢です。なので、学生には不自由はさせないようにしようと思ってます。


パソコンなどは当たり前として、欲しい機材だったり、国内外の研究集会に行きたいという時は、「どんどん行ってこい」と言いますが、最近の学生は謙虚で「いいです、十分です」って言いますけどね。遠慮せずに言えばいいのに(笑)。



学生の研究テーマについて

学生の研究テーマについて教えてください。


磯辺

一人一テーマで、複数で一つのテーマをやることはしません。研究室配属に来た学生がやりたいことがあれば最大限尊重するし、ない人にはこちらからテーマを提案してます。もしかぶったら同じようなテーマで別のテーマを考えるから、興味のあることをやりなさいと言いますね。


共同作業でなにか新しいことを見つけるよりも、自分一人の力でなにか新しいことを見つける方が喜びが大きいだろうし、特に卒論生にはいいトレーニングになるので、一人一テーマでやるのが基本原則ですね


学生もプラスチックをやってる学生もいますし、それ以外をやってる学生もいます。それは興味の赴くままです。


コンピュータシミュレーションや船で現場に出られたりと活動範囲が広いですが、研究室内での研究も多いのですか?


磯辺

全部やりますね。海洋物理学はおもしろい分野で、理論的に紙と鉛筆だけで応用数学のようにやるスタイルの人、コンピュータシミュレーションでモデラ―としてやる人、現場に行って船に乗る人、海洋ロボットのデータを解析する人、色んな方法論を取れるところが非常におもしろいところです。


僕は基本的に全部やりたい。
船にも乗るし、計算機をガリガリ回してシミュレーションもやるし、紙と鉛筆だけの理論的な話もすべて論文があります。
それはせっかくこんなおもしろい海洋学で色んな手法が取れるなら、全部の手法で仕事をやってみたいというのが僕のスタイルですね。


全部!それは、学生も同じですか?


磯辺

学生にも基本的に2つくらいは自分の得意技を持ってた方がいいよというのは言います。シミュレーションと現場観測できるとか。


多角的なやり方で色んな角度からものが見られる。その方がおもしろいことがあるような気がするんです。


【インタビュー前編】

プラスチックを減らすだけではダメ?海洋プラスチックごみの未来を考える|九州大学磯辺篤彦教授インタビュー【前編】


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海洋力学分野では、海況監視/予測に向けた技術開発・研究を進めるとともに、観測や数値的・理論的研究、既存データの解析を駆使して海洋変動の力学(仕組み・素過程)を解明する研究に取り組んでいます。日本沿岸域や東アジア海域に限らず、世界の海に通じる普遍性のあるテーマに幅広く挑戦しています。
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