赤川学ゼミ(社会学研究室)

東京大学大学院人文社会系研究科

インタビュー
2020.02.13

セクシュアリティから少子化問題へ。フェイク情報が広まる歴史を分析する|東京大学赤川学教授インタビュー【後編】

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【インタビュー前編】

ポルノやエロスが社会学に?セクシュアリティの研究について聞いてみた|東京大学赤川学教授インタビュー【前編】


東京大学大学院人文社会系研究科の赤川学教授インタビューの後編です。


前編では、主に「セクシュアリティの研究」についてお話いただきました。

後編では、「少子化問題」のお話から、ゼミでの研究や指導方針など赤川ゼミの魅力に迫ります。


これまでの研究に通底するテーマとは何か、そして社会学をやる意義など、熱いお話を伺ってきました。


セクシュアリティの研究から少子化問題へ

前回はセクシュアリティの研究ということでポルノやオナニーのお話をお伺いしましたが、その後はどのような研究をされていたのでしょうか?


赤川

まあそんな研究をしていると就職できないわけですよ。大学の社会学の講師とかのポストに応募しても落ちまくるんですね。


だからどうしたもんかなと思っていたんですけど、私の指導教員だった先生が社会階層論っていう分野の盛山和夫先生で、要はアンケート調査をやる人だったわけですよ。今でいう格差論、例えば「親の職業が子に何割受け継がれるか」みたいな研究をしていて。


そこでいわゆる計量研究、統計的な研究を覚えて、結局信州大で助手を4年やりました。助手も任期制なのでその間に就職しなきゃいけないっていうので統計の勉強も始めるようになりまして。


博士時代の研究とは少し方向を変えないと厳しかったんですね。


赤川

その後たまたま岡山大で採ってもらったんです。ですけど社会学の世界って若い人は社会調査実習をやりましょうって雰囲気になるんですね。色んな所に行って人に話し聞いたりアンケート調査実施したり。私自身、年齢を重ねて思うのは、 社会調査は体力がないとできません。


若い人は体力もあるので体を動かせと。


赤川

私も例に漏れずそういう立場になりまして、そうするといろんな統計を読むようになるわけですね。


そこで出会ったのが少子化問題です。


何か引っかかるものがあったのでしょうか。


赤川

少子化について語るいろんな専門家が出してくる資料が結構いい加減なんですよ。要は自分たちの持ってきたい結論に合わせたデータをどこかから持ってくると。


どういう方向に持っていきたいかっていうのが先にあるんですね。


赤川

私もその後色んな人と戦うことになったんですけど、例えば女性労働力率の高い国は出生率が高いっていう話ですね。


つまり男も女も仕事も子育てもやるっていうタイプの家族が子供をたくさん産むし、そういうタイプの家族を許容している福祉国家が出生率も高い、みたいなデータを持ってくるケースが結構あったんですね。



赤川

だけどそんなの国の選び方で何とでも言えるんですよ。


当時の男女共同参画担当大臣はテレビに出てそういうデータを示していたんですけど、簡単に言うと嘘つくなよという話で。そういうぶっちゃけ話をしてしまったわけですよ。


ぶっちゃけ話!反響はいかがだったんでしょうか?


赤川

結構ボロクソに言われましたね。言ってることが間違ってると言われたことはないですけど、そういう発言をすることが男女共同参画のフェミニズムに対して敵対的であるみたいな批判をされました。


だけど間違ってるものは間違ってるでしょうって考えてしまうタイプだったんですね。


データを正しく見ましょうってことだと思うんですけど、難しいですね……。


赤川

その辺りが少子化問題との出会いで、2004年に『子どもが減って何が悪いか!』(ちくま新書)っていう本を書きましてね。


フェミニズム的な考えで言えば、男女平等が達成されてその結果少子化が進んだっていいだろうって言わなきゃおかしいんじゃないですか、と。男女平等が達成されたら少子化も歯止めがかかるっていう言い方は嘘なんじゃないか、もっと言うとそんなに出生率上げなきゃいけないんですかっていう議論をしたつもりで書いた本ですね。


これはそれなりに好意的に評価してくださった方も多いです。


批判を受けて引き下がることはなかったんでしょうか。


赤川

一時期はこの問題をやるのをやめようと思った時期もあったんですけど、真面目に考えると何で出生率が減るのかっていうのはすごく興味深い問題でして。


簡単に言うと期待水準が上がるからなんですよね。


どういうことでしょうか?


赤川

例えば教育費のこととか考えてもらえると分かりやすいんですけど、たくさん子どもが産めるっていうのは要は一人あたりにそんなに教育費かけないでいいと考えているからだと思うんですよ。全員を大学まで行かせてちゃんとした職業に就かせなきゃいけないと思うとなかなか産めない。


子どもの教育にかける期待水準がどんどん上がっているっていうことがベースにはあるんですね。


なるほど。


赤川

その期待に合わせてそれを上回るペースで豊かになって行けば子どもって生まれるんですけど、現状は全然そうなっていなくて。


高田保馬っていう社会学者が100年ぐらい前に、社会の中間層では、実際の豊かさよりも、豊かさへの期待水準だけが高くなって産めなくなるっていう議論をしているんですよ。


それに基づけば現代の少子化問題の事は大体分かるんじゃないかっていうので書いたのが『これが答えだ! 少子化問題』(ちくま新書)っていう本ですね。


こちらの反響はいかがだったのでしょうか?


赤川

そっちは全然売れませんでしたね(苦笑)。要するに世の中が変わったんだと思います。少子化問題なんかほっとけばいいんだっていう立場が許されなくなったっていうんですかね。


フェイク情報が広まってしまう仕組みを考える

赤川

研究の中身については、「セクシュアリティ」と「少子化」っていうことになるんですけど、私自身はどちらも言説の研究だと考えています。


どちらも考えていることの本質は変わらないんですね。


赤川

共通するのは、私の目から見るととんでもないフェイク情報も「それはフェイクだよ」って言ったところでその人たちが引っ込めるかっていうとそんなことはなくて、フェイクであるにも関わらず世の中に広まってしまう状況がある。


それをどう考えたらいいのかっていう風に発想が変わっていきまして。そうすると言説とか統計、数字などが人々を騙していく仕組みを考えないといけないんじゃないかなと思っています。



自分にとって大事な問題をやること


ゼミではどのような指導を行っているんでしょうか?


赤川

こういうテーマについてやりなさいとか、こういう手法でやりなさいとかそういう制約は掛けないです。


自分にとって今大事な問題をやりなさいっていうことですね。


その方がうまくいくんです。考えてみれば私もそんなに指導されたわけでもなかったので、社会学の一種の伝統みたいなところがあって。


具体的にはどのようなテーマなのでしょうか?


赤川

環境問題のことやってた人もいますし、ALSっていう体が動かなくなる病気をサポートする人たちについてやってた人もいますね。


今は女性向けAVの研究してる人だったり、後は性別違和っていう自分が男性なのか女性なのかよく分からないっていうアイデンティティを持つ人についてだったり、本当色々ですね。


様々なテーマがあっても、研究のプロセスは同じなんでしょうか。


赤川

社会学の場合、読み解き方は大体3種類なんですよ。


私が伝統的にやっていたのは意味解釈といって、ほぼ文学者に近いんですけどテキストの意味を解釈していくっていうタイプの研究です。言説研究もほとんどそういうものですね。


もう一つは統計的研究、いわゆるアンケート調査ですね。


最後に質的研究フィールドワークって言ったほうが良いですかね。インタビューなどで人が何を考えているのかっていうのを調べる研究です。


大体方法論としてはこの3つぐらいなんです。


社会学はこの世界にあること全てが研究テーマになる分野


どのような学生に来てほしいですか?


赤川

やっぱりライフワークを探すつもりで来てほしいなって思っています。


最近色々批判もされているんですけど、やっぱり社会学って原則的には自分が知りたいことを学ぶ場所だと思うんです。人間生きてれば必ず社会的世界には触れてるわけなんで、この世界にあること全てが研究テーマになる分野だと思いますね。


研究の本質な気がします。


赤川

だけどある程度時間掛けてその問題に向き合うっていうのは必要で、そういう場にしてもらえればいいかなって思うんですね。


社会学の理論とか方法を学ぶこともそうだし、自分で実際に調査してみるっていうのもやっぱり必要ですね。


そうすると他の人がどこで嘘ついてるかっていうのは分かるんです。そういう態度は私の研究の根本にありますね。


最後にこれから研究に取り組む方々にメッセージをお願いします。


赤川

どんなテーマでも5年くらい研究すれば何か見えるだろうなって思います。


学部生だと2年ぐらいで何も知らないまま、私の方も何も指導しないまま別れてしまうんだなっていうのは最近気の毒に思うようになってきて。


それでも社会学を出た人は卒論のテーマは引きずるみたいで、同窓生とに会うと卒論の時はこういうことをやりましたって言う人が結構多いんですよ。


1年ぐらい卒論を書くために本当苦労するらしいんですけど、そういうことをやっておくと他の分野のことにも熱量を持って付き合っていけるんじゃないかなっていう気はしてます。



【インタビュー前編】

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