佐藤拓己研究室

東京工科大学応用生物学部

インタビュー
2019.12.08

セロトニンとケトン体でアンチエイジング|東京工科大学 佐藤拓己教授インタビュー

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東京工科大学応用生物学部の佐藤拓己教授にお話を伺ってきました。


研究テーマはアンチエイジングフードで、その機能を細胞レベルで解き明かすことが研究命題となります。


アンチエイジングといえば誰もが願うことです。

我々は、どうすれば健康で若々しくいられるのでしょうか?

幸せを感じる化学物質とは何か?


そんな気になるお話をインタビューしてきました。


脳のエネルギーが不足すると幸せを感じなくなる?

ーーアンチエイジングフードについて研究されているということでお聞きしたいのですが、日々若々しくいる為にはどうしたら良いのでしょうか。


佐藤 そうですね、日々の生活の中で一番我々にとってエネルギーを消費するものは、脳です。


この脳の中には神経細胞が張り巡らされていて、神経細胞の中には、ひときわ大型の神経細胞である錐体細胞というものがあります。


錐体細胞は多くの細胞から入力を受けていて、神経ネットワークのハブのような役割を持っています。だから大量のエネルギーを必要とするんですね。


しかし、大量のエネルギーを使いすぎると、我々は幸福感を感じづらくなってしまいます。それは、エネルギー不足になることで脳内でセロトニンが正常に作動しなくなるからなんです。


セロトニンは“フォース”!?


ーーセロトニンはどういった物質なんでしょうか。


佐藤 セロトニンは、科学者の間では幸せ物質と呼ばれている程大切なものです。

まるでスターウォーズに出てくる「目には見えないが宇宙隅々に満ちているフォース」のようなものでしょう。


「うつ病」はセロトニンが正常に作動していない、セロトニンが不足している状態と考えています。


抗うつ剤として、一般的なものにSSRIという薬がありますが、これはセロトニンを 再取り込みを抑制することで、セロトニンが効きやすくするものです。


しかし、逆に言えば、自分の体内でセロトニンが正常に働く環境を作ればいいということになります。わたしはこれを「食」で行うことを考えました。


脳と腸は密接な関係にある

佐藤 脳腸相関って聞いたことありますか?


ーー脳腸相関ですか?初めてお聞きしました。


脳腸相関は、最近有名になった学説で、脳と腸が密接な関係があり互いに影響し合うというものです。


そもそも、セロトニンはトリプトファンという動物性タンパク質が分解されたものから作られます。トリプトファンは腸内細菌によって水酸化トリプトファンになります。


水酸化トリプトファンは腸管上皮から吸収され、血流に乗って脳に送られ、脳でセロトニンに変化し、幸せ物質として働き出すという仕組みです。


だから、動物性タンパク質を摂取することが重要なんです。



ーー植物性タンパク質だけだとダメなんですね。


佐藤 そうです、それだけだと明らかにトリプトファンが足りなくなってしまうんです。


そしてなにより、腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)が良質であること。

そのために発酵食品・海藻・野菜を食べることは大変良いことなんです。


さらに、セロトニンは神経細胞の中でメラトニンに変わり、睡眠物質として機能するのです。


日中セロトニンが高く、夜にメラトニンが高くなることが知られています。このリズムを保つことも重要と言えるでしょう。


ミトコンドリアを活性化しよう!

ーー佐藤教授の研究では“ミトコンドリア”が重要なキーワードになっているみたいですがどういった点に着目されているのでしょうか。


佐藤 そうですね、まず、そもそも細胞は細胞質とミトコンドリアの二つの場所でエネルギーを生み出しています


細胞質はブドウ糖を分解する「解糖系」と呼ばれる代謝系からエネルギーを取り出し、ミトコンドリアは有機酸を分解することでエネルギーを取り出しています。


しかし、「解糖系」は、分解の途中でブドウ糖の一部が乳酸に変化されるので、エネルギー代謝の効率が良くない。ミトコンドリアのエネルギー代謝の方が効率が良いんです。


だからミトコンドリアを活性化することで細胞が元気になり、アンチエイジングにつながるんです。


癌細胞はミトコンドリアを使わない

佐藤 ところで、ミトコンドリアって癌細胞では、使わなくなってしまうんですよ。


ーーえ!?ミトコンドリアが機能しなくなってしまうのでしょうか?


佐藤 ミトコンドリアは存在しているんだけど、何故だか使わなくなるんです。


普通の細胞は細胞質もミトコンドリアも使うのに、癌細胞は細胞質しか使わなくなる。まるで燃費の悪いガソリン車みたいな感じになってしまうんです。


だから、癌にならないために最も基本的なことは、ミトコンドリアを最大限に生かすことです。つまり効率的なエネルギー源となる有機酸が大切ということです。


素晴らしいケトン体

佐藤 ミトコンドリアを活性化させるものとして、有機酸の他に「ケトン体」があります。ケトン体はミトコンドリアに直接届き、すべてがエネルギーになります。


そして、ケトン体は脳に効果的なんです。


ーーそれは何故でしょうか?


佐藤 ケトン体が素晴らしい点は、脳に到達する割合が非常に高いことです。


脳には「脳血液関門」という異物を遮断する仕組みがあり、これによって通常の化合物は遮断されてしまい、多くても数パーセント、到達できるのはゼロに近いです。

しかし、ケトン体は約25%脳に到達することができるんです。


つまり、ブドウ糖だけではなく、代謝効率の高いケトン体を脳がハイブリッドに使うことで、セロトニンが正常に働き、強い幸福感を得ることができるんです。


しかし厄介なことに、ケトン体はすぐに生成されてなくなってしまう。糖質をたくさん食べているとケトン体が作られなくなってしまうんです。


特に日本人の生活だと6割は糖質だから、もっと減らさないといけない。


ちなみに、今、ペットの肥満も深刻になってきている。

1万年前は肉しか食べていなかった犬が、今は糖質をたくさん摂取するようになっています。


ーーたしかに今は人間が糖質を摂っているから、犬にも食べさせたくなりますよね。


構造から見る有機酸


ーーミトコンドリアが分解する「有機酸」ですが、どんなものに含まれるのでしょうか。


佐藤 有機酸は多くのものに含まれています。例えばいろんな調味料に含まれているし、果物だとオレンジやりんご、メロンなどに含まれています。


糖質をたくさん食べるより、こういった果物を食べると良いですね。


構造的には、有機酸は主に末端にカルボン酸(-COOH)があるものになります。



CH* が3つある有機酸が酪酸です。



クエン酸はCOOHが3つもあるから酸っぱくなるんですよ。



ーークエン酸はすごく身近ですけど、有機酸なんですね!


佐藤 はい。面白いのは、酪酸の一部が -OH になるとケトン体になるんです。

つまり、構造的によく似てるんですよ。



 ーーなるほど。構造が似ているから、有機酸と同じようにケトン体もミトコンドリアに直接届くんですね。


佐藤 そうです。炭素数が5つより多くなると途端にミトコンドリアに直接行かなくなる。ブドウ糖は6つだから直接行くことができない。


飢餓になるとケトン体が作られる。

佐藤 ケトン体が優れている点として、脂肪から作られることがあります。


脂肪から作られるとはどういうことかと言うと、自分の体の中にある脂肪を使うことができる。だから飢餓の時にケトン体が作られる。


人間が食べずにどのくらい生きていけると思います?


ーー20日ぐらいですか?


佐藤 最低2ヶ月です。脂肪が多い人は4ヶ月くらい生きることもあります。

それは、体の中の脂肪をケトン体に変えることができるからです。


血糖値がコントロールできない機能性低血糖

佐藤 ところで、夕方になると気分が悪くなったりすることはありませんか?


ーー午前中の方が頭が働くという話はよく耳にします。


佐藤 まだ若いとそんなに感じないかもしれません。実は、日本人で機能性低血糖になっている人って多いんですよ。


ーー機能性低血糖とはどういったものでしょうか?


佐藤 普通の人に対して、糖質に依存性がある人は最高の血糖値が高く最低の血糖値もかなり低くなる。この下がった状態こそ低血糖の状態です。



低血糖の間、どうなるかっていうと神経細胞の働きが抑えられセロトニンが正常に機能しなくなるんですね。


その結果、非常に気分が悪くなってしまう。鬱な状態です。これが1日に定期的に繰り返されるっていう感じですね。特に多いのは夕方の4時とか5時です。


ーーなるほど。糖尿病の患者も似たようなことは起きるのでしょうか。


佐藤 糖尿病患者さんでも、実は全く同じ事が起きていて、結局血糖値をコントロールできていないっていうことなんです。


これは、血糖値を下げるホルモンであるインスリンが効きすぎているんです。

インスリンはとても素晴らしいホルモンなんですけど、少し出ると血糖値を一気に下げることができて微調整がきかないところなんです。


線虫とインスリンの関係

佐藤 ちなみに線虫の話なんですが、インスリンの受容体をノックアウトすると線虫の寿命が5倍くらいに伸びるんです。これがなかなか興味深いんです。


ーーつまりインスリンが効き過ぎると寿命が縮んでしまうということですか?


佐藤 はい。「インスリン学説」では老化の引き金はインスリンが引いてると考えています。つまり、機能性低血糖で、インスリンが効き過ぎることは寿命を縮めていることだと考えています。


ケトン体に興味を持ったのは自分の体調の変化


ーー佐藤教授は、ずっとケトン体やミトコンドリアの研究をされていたんですか?


佐藤 元々は創薬を研究していました。認知症患者の為に、神経細胞を保護するための薬についてずっと研究していましたね。


ーーそこからミトコンドリアやケトン体の研究をしようと思ったのはなぜでしょうか。


佐藤 実は、6年前に自分の体調が不調な時期があったんです。夕方になると急に気分が悪くなって甘いものが食べたくなってどんどん太ってしまった。6年前は体重が94キロぐらいあったんですよ 。


それが、糖質制限したら6日目ぐらいから軽くなって、3ヶ月で30キロ減った。

だから僕にとってケトン体は教科書のようなものなんです、実体験だったからね。


認知症の薬が難しい点として、そもそも脳に作用させる点ことなんです。

化合物が脳に行く割合は数パーセントだけど、ケトン体は20%以上脳に到達することができる。


だから僕にとって、アンチエイジングで大切なことは自分の体の中で、セロトニンとケトン体を作るっていうこと。ミトコンドリアも有機酸も全部この話に繋がってくる。


自主性を大切にする研究室


ーー佐藤教授の研究室では、活動方針のようなものはありますか。


佐藤 僕が学生の頃は、毎日10時間以上、土曜日も日曜日も研究室にいるように言われたけど、うちの研究室では、やるべきことをやったら帰路につくようにしています。


研究は自主的に取り組むもので、誰かに強制されてするものではありませんからね。


ーーどんな学生に来てほしいと思いますか。


佐藤 自分で考える人が好きですね。新しいことをやる人。そもそも研究って、新しいことにチャレンジすること。そういう精神があるから、研究って面白いんです。



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東京工科大学応用生物学部
ヒトはなぜ老いるのか?なぜ20歳のままの姿で生活できないのか?人類はこの課題を数千年前から考え続けてきましたが、未だ明確な解答を得ていません。最近の研究では、エネルギーを産生する細胞内の器官であるミトコンドリアがどのようなエネルギー基質を選択するかに大きく依存することがわかってきました。本研究室では有機酸とケトン体をキーワードとしてこのイベントの謎にせまっています。
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