長井圭治研究室

東京工業大学科学技術創成研究院

インタビュー
2019.12.08

太陽をつくる、太陽光を利用する|東京工業大学 長井圭治准教授インタビュー

東京工業大学の長井圭治准教授にお話を伺ってきました。


主な研究テーマは「光化学」で、「太陽をつくる、太陽光を利用する」という目標を掲げて研究をされています。


壮大にも思えるテーマに一体どのように立ち向かっているのでしょうか。


「太陽をつくる、太陽光を利用する」


ーー長井先生の主な研究テーマについて聞かせてください。


長井 専門用語でいうと「光エネルギー変換」の研究をしているのですが、わかりやすいキャッチコピーがあります。ズバリ「太陽をつくる、太陽光を使う」です。


まず「太陽をつくる」とは、核融合反応の研究です。高校の教科書に載っているように、太陽を含めた恒星の中心部では、水素の原子核同士が衝突・融合する核融合反応が起きています。核融合反応が起きると巨大な発熱反応が起こり、石油の約800万倍に相当する膨大な熱エネルギーがこんこんと湧き上がってくるんですね。以前所属していた大阪大学で、高強度レーザーを使って高温・高密度のプラズマをつくり出す「慣性核融合」のプロジェクトに関わったことをきっかけに、現在も核融合の燃料を入れる容器などの研究を進めているんです。


ーー核融合発電は”夢のエネルギー”といわれ、フランスでは大型の核融合実験炉「ITER」の建設が進められていますね。


長井 そうですね。2050年頃まで実用化は困難だろうという予測もあるようですが、核融合発電を実現し、地上に「太陽をつくる」ことができれば、エネルギー問題の解決に向けて大きく前進できるのは間違いない。その第一歩を踏み出そうと、小さなスケールでさまざまな実験を行なっているんですね。


大阪大学で携わったプロジェクトの過程で、高強度レーザーを低密度スズに照射すると、X線よりは長く、紫外線よりも短い、波長13nmの極端紫外線を効率よくつくれることを突き止めました。「太陽をつくる」研究のためには、世界に数台しかない大型レーザーが必要ですが、長井研の中型のレーザーでも、この極端紫外線の発光が可能です。ちなみに、この技術は、リソグラフィーによる半導体の微細加工プロセスにおける光源として採用され、実用化されています。


ーー一方の「太陽光を利用する」についてはいかがでしょうか。


長井 一つは「光触媒」の研究です。光触媒とは、光が当たると触媒になって、その表面に接触する物質の酸化還元反応を促進する物質です。よく知られているのは東京大学名誉教授の藤嶋昭先生らがその原理を発見し、実用化に結びつけた酸化チタンで、消臭・脱臭、抗菌・殺菌、有害物質の除去、防汚などの機能を応用したさまざまな商品が開発されていますよね。私はもう一歩進んで、紫外線や青色光のみならず、オレンジ色や赤色など室内の可視光域でも利用することのできる、有機材料ベースの「可視光応答光触媒」について研究し、その成果をベンチャー企業に技術移転しています。


「太陽光を利用する」の最大の目標として思い描いているのは、「人工光合成」です。エネルギー貯蔵型の光触媒はなかなか難しいのですが、人工光合成を実現し、太陽光からエネルギー物質をつくれるようになれば、エネルギー問題の解決に大きく貢献できます。まだまだ夢のような話ではありますが、CO2を還元してエタノールをつくり、蒸留して飲んでみたいですよね。


苦境は勉強で乗り越えられる


ーー長井先生が科学の研究者を志されたきっかけについて聞かせてください。


長井 光エネルギー変換というテーマに関しては、高校生の頃から興味がありました。オイルショックの影響もあると思いますが、子供の頃から「省エネに励みましょう」「モノを大切にしましょう」という雰囲気のなかで育ったこともあり、エネルギー問題や環境問題に対する意識が強かったんですね。化学を学び始めた頃から、ゆくゆくは核融合や人工光合成を実現して、こうした問題を解決したいなあと思っていました。


それに高校生のときって、なぜ、世の中から戦争がなくならないのだろうとか、いろいろなことに疑問を持って、想像を膨らませてみたりするじゃないですか。核融合発電や人工光合成が実現すれば、石油をめぐって延々と繰り返されている戦争をなくすことができるじゃないかと。素朴といえば素朴ですが、そんな思いもありました。その意味では、高校生の頃にやりたいと思った研究をずっと続けているということになりますね。


ーー初志貫徹といいますか、青春時代の夢を追いかけ続られるというのは素敵なことですよね。研究をされていて、感動を覚える瞬間はありますか。


長井 感動ですか、ウーン……なかなか思い浮かばないですねぇ。僕は学生時代、実験が下手くそで、研究室の先輩に「お前、センスないよなぁ」なんて言われていたんです。実際、装置を壊したり、火を出したり、クサい匂いを撒き散らしたりと、失敗は一通り経験していますし、実験室で「これぞ」という成功体験を味わえることってなかなかないんですよね。

 

ただ、光化学の実験って本当に面白いんですよ。光を当てた瞬間に化学反応が起こって、溶液の色が変わったりとか、プクプクと泡が出てきたりするのは、考えてみれば不思議なことだし、見ているだけでも楽しいですよね。いちばん嬉しいのは、研究成果を論文にまとめて発表し、国内外の研究者に理解してもらったり、企業に活用してもらったりしたときですね。光触媒に関する研究成果を実用化・商品化に結びつけながら、核融合や人工光合成の実現に向けて貢献していきたいと思っています。



ーーなかなか結果が出ないときや、落ち込んだときは、どのようにして乗り越えるのでしょうか。


長井 だいたい落ち込むときっていうのは、進むべき方向性が見えなくなって、日々の充実感が失われてしまうときなんですよね。こうした状態を抜け出すためには、本を読んで勉強するしかないと思っています。教科書を読むこともあれば、専門とは全く関係のない本を読むこともありますが、本を読めば、オリジナルな悩みなんてじつはほとんど存在しないことがわかります。自分が悩んでいるようなことは、人類のご先祖さまたちがすでに経験しているわけですし、本にはその解決策まで書かれている。一生懸命勉強をして「こうやればいいんだ」という手応えが得られれば、ほとんどの悩みは乗り越えられると思います。


それから、日頃の研究で得られた小さな気づきや発見をまとめ、論文を書くことも大切です。前人未到の素晴らしい発見をしてやろうと意気込んでみても、すんなりいくはずがありません。小さな発見でも論文にまとめて、目標に向かって一歩一歩、確実に進んでいるんだという実感を得ることが、エネルギッシュに研究を続ける秘訣だと思います。海外の研究者仲間に認められたり、みんなが苦労しているポイントが見えるだけでも元気が出てきますからね。


研究は”宝探し”。失敗にめげない気力を培ってほしい


ーー研究室のメンバーへの指導方針についてはいかがでしょうか。


長井 現職の任期が来年度までなので、現在は院生の募集を行っていませんが、指導方針は非常にシンプルです。つまり、研究者として生きていくために必要な素養を身につけてもらい、研究室を出たあともメシが食っていけるよう可能な限りサポートする。光化学を極めたいという院生には、分析装置の基本操作を一通り教えるとともに、できるだけ多くの分析手法を習得してもらうなど、研究者として一人立ちするためのポイントをアドバイスします。


もっとも光化学は総合科学的なところがあって、基本的な知識を押さえるだけでもかなり大変なんですね。光や化学反応、電気のことなど、化学および物理の多岐にわたる分野の知識を身につける必要があるからです。それより何より、自分で実験を行い、研究成果を生み出せるようにならなくてはいけない。一人前になるためには、少なくとも10年は必要だと思います。


ーー研究室のOB・OGはどのような分野で活躍されているのでしょう。修了者の進路について聞かせてください。


長井 波長13nmの極端紫外線について研究していた院生は半導体メーカーに、シャボン玉を使った実験を手掛けていた院生は界面活性剤のメーカーに就職するなど、研究内容によって進路はさまざまですが、正直な話、就職に関しては全く心配したことがないんですよね。化学分野の研究開発は、やってみなければわからないという側面が大きく、つねに人手が必要とされているからです。また、高強度光エネルギー変換に関する最先端の知見を学部授業で教えている大学はありませんし、それを手掛けられる研究室も数えるほどしか存在しません。うちの研究室で聞きかじったことを話すだけでも、一般の人には相当インパクトがあると思います。


ーー最後に、光化学や核融合、人工光合成などの研究に興味を持っている高校生や学生にメッセージをお願いします。


長井 研究というのは、広い砂場のなかに放り込まれたダイヤモンドを探すようなものです。核融合発電が可能なことは太陽をみればわかるし、人工光合成が可能なことも植物をみればわかります。つまり、解が存在することはわかっているけれど、それがどこに隠されているかはわからない。ある意味で”宝探し”のようなものなんですね。


したがって、ほとんど毎日が失敗の連続なんですが、失敗に意味がないわけではありません。研究の過程では「この範囲には答えがない」という情報そのものが大きな価値を持つからです。学生には、無数の失敗にめげることなく、答えが見つかるまで研究を続けてやろうという気力を培ってほしいと思います。

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