宇宙観測研究室

筑波大学理工学群物理学類

インタビュー
2020.01.24

星や銀河の誕生の仕組みを探る|筑波大学久野成夫教授インタビュー

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筑波大学理工学群物理学類の久野成夫教授にお話を伺ってきました。


宇宙観測研究室は、「星や銀河誕生の仕組みを探る」という壮大なテーマに挑んでいる研究室です。


「どのように宇宙観測を行うのか」「学生はどのような研究を行っているのか」など、宇宙観測研究室の魅力を探ってきました。


星や銀河の誕生の仕組みを探る


――宇宙観測研究室の研究テーマについて聞かせてください。

 

久野 一言でいえば、電波望遠鏡による宇宙観測です。


星と星の間に漂うガスやチリなど「星間物質」から放たれる電波を観測しており、ミリ波よりも波長の短いサブミリ波、テラヘルツ(10^12ヘルツ)波など、高い周波数での電波観測を目指しています。

 

――星間物質の観測によって、どのようなことがわかるのでしょうか。

 

久野 星間物質は、その温度が摂氏マイナス200度(絶対温度で数10K)と非常に低温ということもあって可視光では見えませんが、密度の高い部分は電波によって捉えられます。そして、「星間物質」は新たに生まれる星の材料となることがわかっています。したがって、星間物質を観測することで、星や銀河がどのように誕生し、いかにして今日の姿にまで進化してきたのか、そのメカニズムを理解することができるのです。


また、さまざまなタイプの銀河が存在するなかで、それぞれの銀河における星の生成メカニズムの違いについても理解することができる。


さらに、はるか遠方にあるガスのかたまりを観測し、生まれたての銀河の姿を捉えることができれば、銀河誕生の仕組みを突き止めることにつながります。こうした壮大なテーマに関わることができるのが宇宙観測研究室の魅力だと思います。


 

「南極テラヘルツ望遠鏡計画」への挑戦 

――研究内容について、もう少し具体的に聞かせてください。

 

久野 「国立天文台 野辺山宇宙電波観測所」の「45メートル電波望遠鏡」を用いて、さまざまな銀河における分子ガスを観測し、銀河の構造やガスのダイナミクスを突き止める研究を進めています。


私たちの研究室では、「45メートル電波望遠鏡」によって147個の銀河を観測し、銀河のタイプと分子ガスの性質の関係など、さまざまな成果があがっています。また、南米チリの北部、標高5000メートルのアタカマ砂漠にある世界最大の電波干渉計「ALMA(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計)」による、ほかの銀河や遠方宇宙の研究も行っています。


現在力を入れているのは、「南極テラヘルツ望遠鏡計画」です。

 

――「南極テラヘルツ望遠鏡計画」とは何でしょうか?

 

久野 南極の内陸部高原地帯に、高精度の10mテラヘルツ望遠鏡及び30mテラヘルツ望遠鏡を建設し、サブミリ波・テラヘルツ波の観測を行う計画です。


南極は地球上で圧倒的に優れた天文観測地点です。日本の国立極地研究所の「ドームふじ基地」の位置する内陸部高原地帯の標高は3800メートル、気温も摂氏マイナス20度〜マイナス80度と酷寒であることから、電波観測の邪魔になる水蒸気が極めて少ない。ハワイやチリでも観測困難なサブミリ波やテラヘルツ波が、大気にそれほど吸収されずに地上まで届くなど、はるか遠くの銀河を観測するのに最適な環境が整っているのですね。

 

「南極テラヘルツ望遠鏡計画」では、近傍銀河や太陽、星形成領域、太陽系惑星大気の観測、気球大気の観測、活動銀河核、ブラックホールなど、さまざまな対象を観測する予定ですが、最大の目玉は、直径1度という、従来の100倍〜400倍の超広視野面積をもつアンテナを用いた超広域的な掃天観測です。より遠方のまだ見つかっていない銀河(暗黒銀河)を検出することで、銀河の形成や進化の過程に関する新たな知見を獲得したいと思っています。


 

外部の研究者との連携

――先生が宇宙観測の研究者を目指されることになった経緯について聞かせてください。

 

久野 もともと宇宙に興味があって、学部・院生の頃は東北大学の電波観測のグループに所属していました。その研究室のメインテーマは銀河系の中の星形成領域だったのですが、私はどうしても銀河の研究がやりたかった。


そこで、「国立天文台 野辺山宇宙電波観測所」で銀河や銀河系、ブラックホールの研究を行っていた中井直正さん(現・関西学院大学理工学部物理学科 南極天文学研究室 教授)を先輩に紹介してもらい、受託大学院生というかたちで同観測所に入り浸っていたんですね。大学院修了後も野辺山宇宙電波観測所にとどまり、研究員、助教、准教授、所長として約20年間研究を続けました。


その後、野辺山宇宙電波観測所から筑波大学に移って「南極テラヘルツ望遠鏡計画」を立ち上げた中井さんに「いっしょにやろうよ」と誘っていただき、2014年に筑波大学に赴任。いまに至ります。

 

――学生の研究内容、指導方針について聞かせてください。

 

久野 もともと宇宙に関心があって入ってくる学生が多いですね。「ここで研究がしたい」といって外部から進学してくる学生が少なくないこともあり、やる気のある人ばかりですし、全体的なレベルも高いので、何をどのように研究したら面白い結果が出るのか、できるだけ自分で考えてもらうようにしています。ただ、野放しにすることのないよう、少なくとも2週間に1度はミーティングを行うようにしています。

 

もう少し具体的に申し上げますと、研究室は「装置開発」を手掛けるグループと、「観測」を中心に研究を進めるグループに分かれています。


「装置開発」のグループは、野辺山45m電波望遠鏡に搭載する電波カメラの心臓部にあたる受信素子の製作及び性能評価、制御プログラムやデータを取り込むためのソフトウェア開発のほか、実際に電波カメラを野辺山45m電波望遠鏡に搭載して試験観測を行っています。


一方、「観測」のグループは、野辺山45m電波望遠鏡やALMAなどで取得したデータを解析したり、データアーカイブで公開されているデータを比較したりして、星間物質の温度や密度といった物理状態を調べ、星や銀河の生成のメカニズムを分析しています。


また、国立天文台など、他の研究機関が取得・蓄積したデータを私たちの研究室の学生が解析することも少なくありません。

 


――外部の研究機関と連携しながら研究を進める点は、宇宙観測研究室の特徴の一つと考えてよろしいでしょうか。

 

久野 そうですね。データを解析する際も、観測のみならず理論研究者を含めたさまざまな研究者と積極的に連携しながら研究を進めています。銀河の形や運動を再現するために、数値シミュレーションのプロフェッショナルである鹿児島大学の和田桂一さんや国立天文台の馬場淳一さんに協力していただいているのは、その一例です。


専門分野の異なる研究者が集まることで議論が弾みますし、データの切り取り方一つとっても、いろんなアイデアが出てきます。私たちだけでは解決できない課題に挑戦するためにも、協力が大切なんですね。

 

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本研究室では、サブミリ・テラヘルツ波や赤外線において地上で唯一最高の観測環境にある南極内陸部高原地帯のドームCに口径10mテラヘルツ望遠鏡を建設し、 可視光では見えない遠方宇宙にある暗黒銀河等の観測を目指しています。 また鹿島34mアンテナ、ALMA干渉計、野辺山45m鏡などの既存の望遠鏡も用いて、我々の銀河系の構造、銀河系中心、星形成領域、系外銀河などの観測的研究を行っています。
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