小山友介研究室

芝浦工業大学システム理工学部環境システム学科

インタビュー
2020.01.05

経済学からゲーム・アニメ産業の研究へ!好きなことテーマにする利点とは?|芝浦工業大学 小山友介教授インタビュー

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芝浦工業大学システム理工学部環境システム学科の小山友介教授にお話を伺ってきました。

主な研究テーマは「経済システム分析」で、日本のゲーム産業を経済学的な視点から研究されているとのことです。


小山教授に「今のテーマを研究している理由」「これまでの経歴」「研究室の雰囲気」などのお話を伺いました。


「経済史」、「社会シミュレーション」から「ゲーム産業」へ

ーーまずはじめに、ご自身の研究や活動について教えてください。

 

小山 私自身はゲームの「産業部分」の研究者です。おそらく、日本に数人しかいないと思います。


2016年には『日本デジタルゲーム産業史: ファミコン以前からスマホゲームまで』(人文書院)という本を出しました。

 

この本では、ゲーム産業の最初、ファミコン以前から現在のスマホやPCのオンラインゲームまでについて書いてます。日本国内のものとしては初めてで、世界でも一国ベースでゲーム産業についてまとめている本はないようですね。


 

ーー元々はどのような研究をされていたのでしょうか?

 

小山 私は文系で、京大の経済学部出身です。大学や大学院では主に経済思想、経済学説史というちょっとマイナーな分野の研究室にいました。過去の偉い経済学者がどういうことを考えていたのかをまとめて調べるという研究ですね。


その後、当時の指導教員の勧めで研究テーマを自由に選んでみようと思い、Visual Basicを独学で学び、修士論文ではコンピュータのシミュレーションを扱いました。

 

大学院卒業後、京都産業大学で一年間ポスドクをやって、そのあと東京工業大学(以下、東工大)の知能システム科学専攻で助教をしていて、社会シミュレーションの研究をやっていました。例えば、感染症や電力売買のモデルを作り、コンピューターでシミュレーションをするというものです。


研究室では理系の学生に経済学的な考え方を教えて、モデルを一緒に作っていましたね。理系の研究室にいたので自然と耳に入ってきますから、半分独学、半分耳学問でコンピューターサイエンス的なことを身につけました。


そんな中でゲームが趣味だったので、いつかゲーム産業の研究をしたいなと思っていました。


ーーそうなんですね。どのようなきっかけで現在の研究テーマを研究し始めたのでしょうか?

 

小山 きっかけは慶應と東大のグループが書いた『ゲーム産業の経済分析―コンテンツ産業発展の構造と戦略』(東洋経済出版)を読んだことです。ゲーマーとしてはあまり納得できない部分もあって。それで、じゃあ自分がやってみようと思ったのがゲーム産業の研究を始めたきっかけですね。


その後、東大の知り合いと研究を立ち上げ、『コンテンツ産業論―混淆と伝播の日本型モデル』(東京大学出 版会)を出版しました。この頃に現在の芝浦工大に移り、学生指導をする時にはこの方向でやろうと決めました。

 

ーー東工大でされていた社会シミュレーションの研究について、もうすこし詳しく教えてください。

 

小山 火災の延焼や感染症のシミュレーションなどが、割とポピュラーですね。


風向きなどのいくつかの条件によって、街中での火災の延焼範囲や被害額などに差が出ます。設定区画に燃えにくい建物が何%混ざっていたら被害が小さく収められるとか。


感染症だったら、ワクチンを接種している人の割合や、学級閉鎖をして歩き回らないようにした場合といった条件を与えて、その結果どれくらい感染が広がらないかということをシミュレーションして詳しく見ていくんです。

 

こういった内容について、コンピュータにモデルとして実装して走らせてみるというのが、10年ほど前に関わっていた研究です。

 

ーーそういった研究は、ゲーム産業史の研究に繋がる部分はありましたか?

 

小山 ゲームの産業史をやろうとすると、技術のことを最低限知らないといけません。そこがカギになっていることが結構あります。さらに産業となると、経済的な知識が必要になるので、結果的に両方が必要だったなと思ってます。


ーー技術というのは、具体的にはどのようなことでしょうか?


小山 コンピュータの原則的なことですね。スペックや処理能力、開発環境がアセンブラからCに変わり、その後オブジェクト指向に変わり……といった感じの、コンピュータの技術的なことを最低限言葉以上に分かっているというのは、開発者に話を聞くという場面で、とんちんかんになりにくい。もちろんゲームも遊んでいましたし、最低限のプログラミングのことや工学的な話も聞きかじってはいたので、大体の「勘所」というのがわかります。それは、今から思えば大きかったですね。

 

ゲームはソフトウェア産業における日本の主要な輸出産業


ーーご自身の研究テーマをどんな風に捉えられてますか?

 

小山 ITやICTの分野で、日本が輸出として黒字を出しているソフトウェア産業というのはゲームだけなんですね。ハードウェアも唯一黒字を出せているのは、ゲームだけなんです。気づいたら、携帯電話も大半は輸入ですし。


以前に比べ世界的にみると随分弱くなってしまったんですが、それでも世界でも競争に強いICTの産業分野であるゲームについて、誰も分析や研究していないというのはどうなのかな、と思うんです。好きなことを研究にしているという部分では、遊びに近いのかもしれないけれど、意味や意義はあると思っています。

 

今後のゲーム産業、注目は「クラウド」「VR」「AR」

ーー技術によってゲームが発展してきて、映像もすごくきれいだったり、そういったところでは限界に近いように思われます。今後、ゲームはどう発展していきますか。

 

小山 可能性として技術的、ビジネス的に模索されているのは、「クラウド」「VR」「AR」ですね。


家庭で買ってもらう場合、どうしても4,5万円のゲーム機が限界ですが、クラウド側にスパコンを使うことができるわけです。今後本気でやれば、スパコンで今までにないなにかが作れるはず。それをネットワークで転送する分にはお金がかからない。

 

コントローラを使って画面で得られる刺激というのは上限に来ていて、その次として試行錯誤されているのが「VR」「AR」だと思います。


Oculus Rift以降、ある程度価格も安くなって、普及してきましたよね。それでもなかなか採算ラインには乗らないようですが。ゲーム機本体に追加で、さらに何万円かかけて購入する周辺機器なので、大した数買ってもらえないんですよね。

 

専用に開発しても売れるとしたら、数万本とか、良くて数十万本なんですよ。それくらいの規模しか見込めない。今、最高レベルのゲームだと世界で一千万売れます。そうなると、制作や開発にかけられる予算もハリウッド映画の平均より高いくらいです。同じくらいの予算をかけて作れるVRというのは、まだありません。次の世代のゲーム機が入れてくるかというのが話題でしたが、プレイステーション5は今のところ載せないと言ってます。もしかしたら技術評価用に作ったりするかもしれないですが、ビジネスにはのらない。まだ少しVRは時期尚早という判断なんだと思います。

 

こんな風に技術の話とビジネスの話をくっつけながら議論できるような研究をやりたいというのが、私の趣旨なんですよね。

 

研究室の雰囲気や研究内容について


ーー研究室の学生はどのようなテーマで研究されているのでしょうか?

 

小山 ゲームやアニメをテーマに選ぶ学生が多いですね。例えば、過去の研究テーマでは「おそ松さんの2ちゃんねるのスレッドのテキストマイニング」というのをやった学生がいましたが、やっぱり「おそ松さん」が大好きだったんですね。

 

研究テーマを決めるときに一つ求めるのは、「勘がきくこと」なんです。というのは、中身やゲーム性についての言及はしないですが、学生にとんちんかんなことは言わせたくないんですね。出てきた結果の解釈について、とんちんかんにならない程度の勘がきくことというのを要求して、「そういった範囲のテーマを選んでね。」と話しています。

 

ーー好きだと、出てきた結果に対してどう解釈すれば良いかというのが分かるということですね。

 

小山 はい、掲示板のコメントから頻出単語とかある言葉の繋がりを拾ってくるのですが、どういったことが議論されているかというのが勘がきかないとまずいんですね。その程度には、取り上げる作品に親しみがあってミスリードをしないこと、というのを条件にしています。

 

修士論文では「アニメの聖地巡礼の研究」もありました。ゲームやアニメなど、オタク的なものであるとか、そういったものに対する経済学というより、半分社会学みたいなものに近い研究ををする学生が多いです。

 

ーーゲームに限らず、いろんな分野のコンテンツの研究をするのですね。

 

小山 大学院に上がると、基本的にコンテンツだけですね。四年生の卒論の配属の段階では、基本的に社会調査、もしくは産業に関することをやる学生がきます。


理系なのに文系の研究ができる研究室なので、専門科目に飽きたというタイプ、もしくは新しいことをやりたい人も所属してますね。あと、アニメやゲームに関心の高い情報系の学部生や留学生も来ます。

 

社会シミュレーションもコンテンツ研究もマイナーな分野なので、学生も「こういうのも研究になるんだ」と勇気を持って来てくれる人がいます。

 

遊びながら「システム」を考える

ーーゲームが好きな高校生も多いと思います。こんなことも研究になるんだと知ることで、大学での研究に興味を持つ人もたくさんいるんじゃないかと思います。そのような高校生たちに、勉強との繋がりや今やるべきことなどへのアドバイスがあればお願いします。

 

小山 ゲームで遊ぶなかで、中のメカニズムがどうなっているかに興味をもつことですね。それぞれのパラメータの関係やシステム的な話を分析するような視点で見てみることです。

 

システムを分析するという感覚は、他の分野でも共通したりします。実は、システム的なことを説明する際、ゲームをある程度していたかどうかが理解力に影響したりするんですよ。パッと入る人は、意外とゲーマーだったりします。


何を勉強すべきかについては、統計や英語といった一般論はありますが、「仕組みがどうなっているかを、気にする、考える、分析するといった経験が将来に役に立つよ」、と言いたいですね。



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