生体生命情報研究室

工学院大学工学部電気電子工学科

インタビュー
2019.12.23

生体情報、生命情報から高齢社会に役立つ技術を|工学院大学福岡豊教授インタビュー

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生体情報」「生命情報」について研究されている工学院大学工学部電気電子工学科の福岡豊教授にインタビューしてきました。


生体生命情報研究室は工学部でありながら医学部と連携して医療に関わる分野の研究を行っています。「医工連携とはどのようなものか?」「工学部ならではのアプローチとは?」様々なお話を伺ってきました。


高齢社会に役立つ技術を

ーーまず初めに現在の研究内容について教えていただけますか?


福岡 テーマは大きく分けて「生体情報」と「生命情報」の2つです。


生体情報は、大雑把に言うと生体から得られる情報を取り扱うということで、生体計測や測った信号の処理、モデルを使って生体について理解するというようなことですね。


生体計測の研究室って結構色々な大学にあるんですけど、うちの特徴は生命情報っていうのも扱っているところです。いわゆるゲノムとかたんぱく質のような情報をどう処理するかっていうこともやっていてます。


簡単に言うと生体から得られる情報をうまいこと処理して、高齢社会で起こる問題に対して役立つ技術を開発したいということで研究を行っています。


生体情報で医療機器の開発

ーー「生体情報」では、具体的にどのようなことを研究されているのでしょうか。


福岡 1つは容量性結合電極といって、体に直接電極を貼らないで生体信号を図る技術です。例えばベッドに電極を仕込んでおいてその上に寝ると、心電図や呼吸、体の動きなどが測れるんです。これを使った応用例としては、睡眠時無呼吸症候群のスクリーニング検査ですね。呼吸が止まると当然心臓の方にも影響が出ますし、体の動きも変わってくるので、そういったものを捉えようっていう研究です。


医用画像や医療機器でいうと、例えば「電位治療器」などです。しばらく座ってると体調良くなりますという装置なのですが、実際何で効くのかっていうのが分かっていないんです。薬事法でこういうことは書いてもいいとか説明していいっていうのはあるんですけど、もうちょっと科学的に調べるというような研究を行っています。



あとはヒトの直立姿勢制御です。我々は何も意識しないで真っ直ぐ立つことができますが、これをちゃんとやるにはいろんなメカニズムがあるんです。今の技術だと体がどれくらい傾いているかは簡単に検出できるんですけど、それを使用者に伝えることが問題で。視覚や聴覚で「どれくらい傾いていますよ」というのを伝えるのは簡単なんですが、それだと日常生活では不便になってしまう。そこで、体性感覚といって振動刺激とかで伝えられると使い勝手が良くなるんじゃないかと。


ーーそれはどのような方に向けたものなんでしょうか?


福岡 耳の中に三半規管っていう規管があって頭の傾きと加速度とかを検出してるんですけど、それは年齢とともに弱ってきたり、病気で弱ってきたりするんです。そのような人に体が傾いてますよっていう情報をいかに伝えるかということですね。


日常生活の中で普段からずっとつけておく装置でどうやって情報をフィードバックするかっていうのはちゃんと考えないといけない。


生命情報を使った個別化医療

ーー「生命情報」の方はどのような研究でしょうか。


福岡 生命情報の方は、遺伝子とかタンパク質っていうレベルの話です。医学部でこういう研究を行っているのは、対象としては癌が多いんです。我々はそこからデータをもらっているので、主に癌の研究ということになります。


キーワードとしては「個別化医療」です。患者個人のゲノム情報を使ってその人に合った治療をしましょうっていうのが目的になっています。


人間には30億の塩基対があると言われていて、これが情報量としては30GBくらいになります。それを一回読んだだけだと、読み間違いなのかもともと標準のものと違うのかがわからないので何回か読む。そうするとものすごい量のデータになります。


その中から、「ここは癌に関係してるんじゃないか」とか「ここは治療の方針の時に参考にできるんじゃないか」っていうところをいかに探すかというのが問題になっています。


ーー最近では個人でも利用できるようなゲノム解析サービスもありますよね。


福岡 あれはこの部分の塩基がこうなっていたらこういう病気になる可能性があるっていう、ごくごく限られたものだけを扱っているんです。しかし実際はもっと複雑な組み合わせとかで効いているかもしれない。そこをちゃんと調べようというような研究をやっています。


ーー癌の研究の難しさはどこにあるのでしょうか。


福岡 こういうゲノムの話では遺伝子が人間に2万数千あるって言われてまして。それに対して患者がせいぜい100人くらいなんです。つまり変数が2万数千あるのに、方程式が100個しかない。そうすると変数が多すぎて本当の答えが出てこないんです。それをいかに制約するかっていうことを考えなければいけない。


microRNAという遺伝子とよく似たような分子があるんですけど、これが大体人間に2000個ぐらいあるって言われているんです。そうすると1/10ぐらいの数に減るんで、色々見通しが立ちやすいんじゃないかなっていうことで、そのような研究もやっています。



医工連携の中で感じる医学部にはない工学部ならではの視点

ーー工学部でありながらとても医学に近い研究をされていますね。


福岡 そうですね。医学部の人と一緒にやってる研究も多くて、特に生命情報の方はデータを自分たちで取れないので、割と医工連携の研究っていうのが多いです。


ーー工学的な考え方と医学的な考え方は違うものでしょうか。


福岡 医学部の人たちには「写像」というものをあまり理解してもらえないですね。つまり、この遺伝子の量とこの遺伝子の量を何倍かして組み合わせるっていうような概念です。それが実際に何を表しているかということがまず理解してもらえないんです。医学部の人たちは、この一個の遺伝子がどうかで診断したいという感じで。


ーーなるほど。実際には遺伝子も色々なものが組み合わさった結果で何か発現している可能性があるということですよね。


福岡 実際そうだと思いますね。バラバラに動いてるんじゃなくて、相互作用してますからね。それを工学系の人間って割とデータ変換してモノとして何とかしてっていうのが感覚的に分かりますけど、医学部の人たちはそういう感覚がないんです。


まぁ同じことをやっていても絶対知識では勝てないんで、工学部ならではの視点を持って、違う見方をしているという感じでしょうか。


ーー工学的な視点ということで、具体例などありますか?


福岡 例えば、癌だとポジティブフィードバックというのを考えています。いわゆるハウリングですね。癌というのは非常に増殖能が高くて、制御がきかない暴走状態みたいになっているんです。バブルとかデフレスパイラルとかもそうですけど、極端な状態に行ってしまう。似たようなことが癌でも起きていて、それを工学的な理論で説明できるんじゃないかなと。


研究に惹かれたきっかけとは?

ーーなぜ研究者になろうと思ったのでしょうか。


福岡 修士のとき、いわゆる第二次ニューロブームっていう時代で、今のディープラーニングの前のバックプロパゲーションというのが出てきた時代だったんです。たまたまそれをテレビで「学習するコンピュータ」っていうのを見て、これ面白そうだなと思ったんです。


それをやるんだったら企業に行くのがいいのか大学に残るのがいいのかっていうので考えたときに大学に残って研究しようというふうに決めました。ドクター出た後の就職とかはあまり考えてなかったです。


3年でドクター終わった時に、たまたま東京医科歯科大学の先生と研究室の先生が知り合いで、そこのポストどうですかって話を頂いて。元々そういう医療系の似たようなことやってる研究室だったのでそういうところに行くことになりました。


一般的な大学だと、授業をやりながら研究になると思うんですけど、そこは研究所だったので研究だけすればいいという環境でした。そこで今やっているような姿勢制御の話とか耳鼻科絡みの話とかをじっくり考えて取り組めたのが良かったのかなって思います。


ただ卒論を書くだけでなく、何かを明らかにしたいという気持ちが重要


ーー学生も先程挙げられたテーマを研究しているのでしょうか。


福岡 そうですね。学科が電気なんで、生体情報や生命情報についてほとんど何も知らない状態で入ってきて、勉強しながらテーマを設定して課題を解決するっていうことをやっています。大体うちの場合は前の人から引き継いで研究するっていう形が多いですね。


ーーどのような学生に来てほしいですか


福岡 やっぱり好奇心があってチャレンジ精神がある人っていうのがいいかなと。こういうことが面白いと思って研究してもらえるのが一番大事だと思っているので。


卒論でやらなければいけないからやっているだと、どうしても研究として雑というか、本来見えるべきものが見えなかったりしてしまうんです。だから、ただやるんじゃなくて何かを明らかにしたいっていう気持ちがあるかっていうところが重要だと思います。

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生体生命情報研究室
工学院大学工学部電気電子工学科
生体から得られる情報の処理を研究テーマとしています。 対象は遺伝子などのミクロなレベルの生命情報から、臓器や疾患患者というマクロなレベル(生体情報)まで多岐にわたります。それらの多くは医工連携研究として実施されています。研究成果を医療診断や治療に役立て、健康な日常生活を支える技術に応用することを目指しています。研究を通じて、日本が直面する超高齢化社会の問題にチャレンジしています。
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